定年延長はいつするべき?70歳までの雇用は?
労務関連
ここ数年、定年延長の実施を検討しているという問い合わせをよくいただくようになりました。特に、2021年4月1日の高年齢者雇用安定法改正以後、企業の動きが加速していると日々実感をしています。今回の法改正ではまだ65歳への定年延長自体は義務化されておらず、70歳までの雇用確保措置についても努力義務の範囲に収まりましたが、いよいよ本腰を上げて検討をしていかなければいけない、という意識の企業が多くなってきているようです。
では、定年延長を含めた定年制度改革を既に実施した企業の割合はどの程度あるのでしょうか。厚生労働省の調査を基に確認してみましょう。
図表①を見てください。厚生労働省が発表した最新の2022年調査では、定年制度の見直しを実施済みの企業の割合は29.4%(定年廃止3.9%、定年引上げ25.5%)となっています。
2012年調査時点との比較では12%上昇しており、この10年で確実に企業の取り組みが進んでいることが分かります。既に定年見直しを実施済みの企業で約30%あるということは、現在取り組みを検討中の潜在企業を加えれば、おそらく過半数あるいはそれ以上の企業が関心をもって取り組んでいるテーマと言っても差し支えはないでしょう。
<図表①高年齢者雇用確保措置の内訳(2012、2022調査比較)>
上記のような状況を鑑みると、定年延長は今のタイミングが丁度よいのではないか?という風にも考えられますし、実際今年も多くの企業が動くものと予想されます。ただ、世の中の動きがそうだからというだけで安易に決定してしまうことは企業姿勢として好ましくない部分もあると考えます。もう少し言えば、定年延長を決定する前段として、いま定年延長を行うことの必然性について全社的に議論を尽くすことを各社に求めたいと思います。
さて、定年延長の必然性を検討するにあたっては、定年延長を行うことのメリット・デメリットが「社員視点」「会社視点」の双方で共有されていることが重要です。一例を図表②に示しますので、参考にしてください。
図表②定年延長のメリット・デメリット(一例)
メリット |
デメリット |
|
会社視点 |
・シニアの活躍機会が広がることと活躍期間が延びる
・人手不足対策になる(現役続行) |
・組織の新陳代謝の遅れ
・賃金上昇リスク(一般的な 再雇用制度との対比) |
社員視点 |
・雇用の安定(長く働ける)
・仕事で活躍できる期間の延長 ・賃金上昇への期待(一般的な再雇用制度との対比) |
・健康リスク(社員としての仕事を継続することによる心身の負担)
・退職金受給年齢が遅れる |
上記内容を社内でとりまとめ、共有しておくことにより、定年延長のみならず、広く「高齢化が進む中での組織運営はどうあるべきか」といった幅広い検討をも行うことができるようになりますので、ぜひ一度取り組んでみてください。
具体的な取り組みにおける資料として、弊社情報サイト「定年延長.com」や、拙著『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規、2020)の内容も参考にしてください。
・定年延長.com https://teinen-encho.com/
・『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規、2020年)
執筆者
森中 謙介
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
バックナンバー
- 急激なベースアップが裏目に出る?パート・アルバイト社員の社会保険適用拡大と「年収106万円の壁」
- 定年延長の失敗例 ~定年延長を目的化しないことの重要性~
- 2025年問題への対応、企業の高年齢者活用は正念場へ
- リスキリングと人事評価制度について考える(1)
- 定年を60歳から65歳に延長する場合、60歳で退職金を受け取ることはできるか?
- 固定残業制度を会社が一方的に廃止することはできるのか?
- 役職定年制は是か非か
- 中小企業の人事・労務を変える、「最新HRテック(HR Tech)」の活用法とは?
- フレックスタイム制の改正
- 新刊書籍紹介(『社内評価の強化書』)
- エン・ジャパン「企業の『残業規制』意識調査」
- NTT西日本の子会社契約社員雇止め裁判について
- 定年制度改革の足音
- 最低賃金及び時間外労働割増賃金の計算における除外賃金について
- 育児・介護休業法の改正と進む企業の支援策