リスキリングと人事評価制度について考える(1)
人事制度
「リスキリング」という言葉がここ数年よく使われるようになってきていますが、各企業がどういう取り組みをしているのか、どういう問題意識をもっているのか、という具体的な部分についてはあまり知られていないのが実態ではないでしょうか。
そこで、改めて「リスキリング」とはどういう文脈で出てきた概念なのであり、何を目指しているのか、ということについて簡単に概観した上で、企業の人事評価制度への「リスキリング」の展開方法について考えてみる、ということが今回のブログの目的となります。
1:リスキリングとは
まずはじめに、経済産業省の定義によれば、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」であるということです。加えて、この定義に沿って補足的に次のことも説明されています。
①リスキリングは個人の関心に基づく単なる「学び直し」ではなく、今の仕事を軸として継続的に価値を創出するために必要なスキルを学ぶこと
②あくまで仕事を継続しながら学ぶことを前提としており、学びのために一度職を離れる「リカレント教育」とも区別される
2:リスキリングが必要とされる背景と実態
次に、リスキリングが必要とされるようになった背景に関して、代表的なものとして「DXへの対応」が挙げられています。もちろんDXだけが全てではありませんが、DX時代の新しい職業に対応する、あるいは既存の職業でも仕事の進め方が著しく変わっていく環境に対応していくために、必要なスキルを習得していくこと(=リスキリング)が求められている、ということです。
このような前提に対して、企業における「リスキリング」の実態はどうでしょうか。比較的最近の調査として、株式会社ビズリーチが2023年4月に行った「リスキリングに関する調査」の結果を見ていきたいと思います
(詳細はURL参照:https://www.bizreach.co.jp/pressroom/pressrelease/2023/0404.html)。
まず、ビジネスパーソン対象のアンケートでは、「95%」が将来的に新たなスキルを身につける必要性を感じている、と回答しています。
対して、企業経営層・採用担当者対象のアンケートでは、現在リスキリングに取り組んでいる企業は全体で「26.3%」の回答に止まっています。この点は企業規模によっても大きな差があり、例えば「5,000名以上」の企業では「48.9%」、「50名未満」の企業では「12.2%」となっており、中小企業の方がまだまだ取り組みが進んでいない様子が伺えます。
次に、各企業がリスキリングで社員に身につけてほしいスキルにはどういうものがあるのか、について見ておきます。同調査では特に「自社の社員に、積極的に身につけてほしいITスキル」についてアンケートをしており、以下のようなスキルが上位にランキングされています。
・データ解析・分析:46.1%
・セキュリティ:32.8%
・デジタルマーケティング:24%
(以下略)
3:リスキリングと人事制度への展開
また、同調査では会社サイドに対して、こうした新たなスキルを身につけて成果を出した社員に対して、「昇格や抜てきを積極的に行うか?」といった人事制度運用についてもアンケートをとっています。それによれば、全体で「67.2%」が前向きな回答をしており(行う=21.4%、どちらかといえば、行う=45.8%)、社員によるリスキリングを評価している姿勢が伺えます。この点については企業規模による差も大きくはありませんでした。
ビズリーチ社のアンケ―ト以外にも、リスキリングに関する調査結果が続々と出てきています。今後はDX対応に必要なITスキルの習得を中心に、それ以外にも幅広い文脈でリスキリングが求められてくると考えられます。
こうした動きに伴い、各企業で受け皿としての教育制度の充実はもとより、リスキリングの文脈で求められる要素を人事評価制度における評価基準としても適切に整理/再構成することが必要になる場面も出てくるでしょう。リスキリングによる成果を給与処遇や昇進昇格といったキャリアアップの仕組みにも反映できるようにしておくこともが望まれます。その際には、対象となる社員層について、年齢階層(若手、ミドル層、シニア層)、等級、あるいは職種区分など、社員区分によっても考え方を整理しておくことが効果的でしょう。
次回以後では、リスキリングの詳細と人事評価制度との効果的な連動方法について、もう少し具体的に検討していくことにします。
執筆者
森中 謙介
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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