ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑨

■企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて(その5)

前回に続き、企業として共感を生み出すことのできる『パーパス(purpose)』があることによって生まれる7つのメリットの7つ目について解説していきます。

 

7.顧客や市場の共感と支持を引き出すことができる
 

これまで述べてきたように、企業として表面的、形式的なものではなく、企業経営のための本質的なこだわり、本質的な目的と合致した『パーパス(purpose)』が存在することで、様々な効果が生まれてきます。
複雑性が増し、環境変化のスピードがどんどん速くなり、将来予測が難しくなるなど、何が正解となるかわからない世界において、『パーパス(purpose)』が羅針盤として機能することで、未来に向けて前進するための力が生まれ、より良い未来を創り出す可能性が高まります。

また、多様な人材が集う組織において、『パーパス(purpose)』が軸として機能することで、集団における無用な対立や分裂が減少し、集団が持つ知恵や力が結集され、様々な相乗効果を生み出すことが可能となります。そして、多様な人材が集う組織内の意思疎通がスムーズになり、コミュケーションや情報伝達のスピードも上がるとともに、的確かつ迅速な意思決定が可能となっていくでしょう。
 
『パーパス(purpose)』が企業内での重要な価値基準として浸透し、トップから末端の社員まで『パーパス(purpose)』を判断基準として判断し、『パーパス(purpose)』を行動規範として行動するというフィードバックサイクルが組織の中で繰り返されるほど、『パーパス(purpose)』は浸透し、全社員の『行動習慣』となり、『企業独自の文化』となっていきます。
『企業独自の文化』が定着していくほど、多様な個性・キャリアを持つ社員が集う大きな集団であっても、目には見えないものの『共通の色・カラー』、その組織ならではの独自性が発揮されるようになっていきます。
そして、『企業独自の文化』が中長期に渡り、一貫性を持って発揮され、顧客や市場から『ゆるぎない信頼性』として認識されると『ブランド』や『のれん』を形成する一つの要素となってくるのです。
その結果として、「あの企業の商品だったら、使いたい。安心だ」「あの企業のサービスだったら信頼できる、共感できる」といった顧客からの信頼や支持につながっていきます。
 
少し専門的な話となりますが、モチベーションに関する研究において、不確実な未来や不確実なことに対しての『予期』という概念があります。
我々は日常的に(意識しているつもりはなくても)、その人なりに先々こうなるだろうという『予期』(今回は予想や期待というような意味合いで捉えて下さい)にもとづき、様々な選択や行動を行っている部分があります。
モノゴトに対してどのような『予期』を抱くかによって、人間のモチベーションも高くなったり、低くなったりしますし、心理や感情も変化します。
 
自社の顧客や取引先から見て、これから先も自社の商品やサービスに対して、どのような『予期』が生じているか?を想像してみてください。

 

・『信じることができ、安心できる。この企業が約束したことは必ず履行される』と思えているのか?

 ・『信じることはできなくて、リスクがある』と感じるのか?
あるいは、
 ・『あまり信用はできない。その程度のものだろう』と感じているのか?
 
自社のこれからに対して、良い『予期』(良い予想や期待)は生まれているでしょうか。
 
我々が生きる資本主義社会では、自由競争の中で営利を生み出していく必要もあるため、どうしても、いかに売上や利益を上げるか?いかに競争に勝つか?という視点や価値基準が優先されがちな部分があります。そして、そのために『どんな手段を使っても!』という行動や価値観が助長されてしまうリスクも内包されています。
長い目で見れば、顧客や市場の信頼や期待を失う事態となっても、目先の売上や利益を優先する行動や判断はいまだにあちこちで発生しているようにも思えます。
 
しかしながら、その一方で、近年、若い世代の価値観の変化にも現れているように、『健全な形で社会に貢献し、プライドを持てることが大切である。』といった価値観についても取り上げられることも増えてきたように思います。
インターネットの普及によって、以前よりも企業の様々な情報も知られやすくなってきています。提供する商品・サービス含めて、この企業は信頼できる会社であるか?それとも信頼できない会社であるか?についての情報も明らかになりやすく、ウソや不正も明るみに出やすくなってきています。
同時に、長期にわたり誠実で一貫性ある姿勢と行動についても認知されやすくなってきています。誠実で一貫性ある姿勢が認知されるにつれ、顧客や市場からの信頼が増していき、自社の独自性、こだわりについても『共感』するファンが増えていきます。そして、顧客や市場からの『信頼』や『共感』がブランドやのれんを形成し、市場における更なるファンを作っていくのです。
 
繰り返しとなりますが、『パーパス(purpose)』を軸とし、企業として一貫性ある行動を続けることによって、自社の独自性が磨かれ、提供商品やサービスの品質を高め続けるサイクルが回りやすくなります。
そして、企業として、一貫性ある継続的な努力と活動が、顧客や取引先、市場から『信頼性が高いもの』として認知され、支持や共感を生み出すことにつながっていきます。
 
経営環境も大きく変わり、未来を見通すこともより難しい時代となりました。
だからこそ、『パーパス(purpose)』を明確に掲げ、『パーパス(purpose)』の実践に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

執筆者

花房 孝雄 
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)

リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー