若手重視のベースアップ・賃上げを行う方法(ベースアップ・シミュレーションつき)
賃金制度
2024年も賃上げが大幅に行われる見通しです。新入社員の初任給も引き上げられる傾向にあります。通常、賃上げは企業の収益に基づいて行われるべきですが、業績が厳しい企業でも、人材の確保と定着の観点から、ある程度の賃上げが必要になる場合があります。
賃上げを行う際、経営者や人事担当者が悩むのは、一律に全員に賃金を引き上げるか、特定のグループに重点を置くかです。一律引上げはシンプルで、多くの社員が納得するでしょう。しかし、特定のグループに焦点を当てたり、逆に抑制したりしたい場合は、重点配分が必要です。
1:全社員一律の金額でベースアップする場合
例えば、次のような賃金テーブルがある場合、適切な対応策を考えてみましょう。このテーブルでは、高卒初任給が1等級1号俸で180,000円、大卒初任給が2等級1号俸で201,000円です。昇給は毎年、人事評価に応じて号俸数が増える形式です。
たとえば、今期、通常の昇給とは別に、社員1人あたり約10,000円のベースアップを行う方針が出たとします。まず、全員に一律に引き上げる場合、基本給表全体を1万円ずつ上げるだけで、基本給表の改定案は次のようになります。(基本給表改定案1) 新卒の初任給も、高卒の場合は180,000円から190,000円へ、大卒の場合は201,000円から211,000円へ、それぞれ10,000円ずつ引き上げられます。
この場合、等級ごとのベースアップ率をシミュレーションすると、次のようになります。一律に10,000円を増やす場合、基本給の差によって、給与水準の低い方がより高いベースアップ率を受けることになります。例えば、社員数が100人の企業で、各等級の在籍人数が、1等級が10人、2等級が25人、3等級が25人、4等級が20人、5等級が10人、6等級が10人である場合、全体のベースアップ率は3.8%になります。実際に実施する場合は、企業ごとの人数構成に合わせて計算してください。
2:若年層に重点を置いたベースアップを行う場合
一方、最近のトレンドでもある「初任給や若年層の重点引上げ」を実施したい場合、具体的にどのようにすればよいのでしょうか。一般的には、下位等級から順に、年齢層が上がっていくので、ベースアップ原資を下位等級に手厚く配分することになります。そのため、以下のような改定案が考えられます。(基本給表改定案2)
新卒の初任給は、高卒で180,000円から193,400円へ13,400円アップし、大卒で201,000円から213,000円へ12,000円アップします。ただし、上位の等級まで同じ水準で引き上げると、原資が足りなくなるため、2等級以上の1号俸スタート金額を抑えます(下位等級の16号俸と同額→15号俸と同額)。また、上位等級の基本給と重なる部分については、1号俸当たりの金額を半分にすることで(ピッチ2)、長期間同じ等級に滞留する人材のベースアップ金額や定期昇給額を抑制します。
基本給表改定案2に基づくベースアップ率をシミュレーションすると、以下のような結果となりました。1等級、2等級といった若年層の改善率はより高くなったものの、等級や号数が上がるにつれ、ベースアップ率は低下しました。全体のベースアップ率は3.8%と、改定案1と同率となっています。
3:毎年の昇給率も改善する場合
更に、既存社員の定着率を高めるために、毎年の昇給額も改善したいという場合、下の図に示すような基本給表改定案3が考えられます。この案では、ピッチ1の金額を1等級から5等級まで200円ずつ改善しています。一方で、ベースアップ原資を調整するために、2等級以上の1号俸スタート金額を抑えています(下位等級の16号俸と同額→下位等級の14号俸と同額に変更)。
基本給改定案3に基づくベースアップ率は、次の通りです。ピッチを引き上げたことで、4~5等級といった中堅層にも配慮した改善となりました。
これまで、具体的な給与テーブルを使って、若手層に重点的にベースアップを行う方法を見てきました。
もちろん、企業によっては、「管理職」や「採用競争力を高めたい職種」に重点を置く必要があるかもしれません。その場合は、管理職や特定職種に対する手当などの改善に、賃上げ原資を配分することになるでしょう。
いずれにせよ、大幅な賃上げを行う際には、自社の人事課題に沿った賃金改善も同時に検討することをお勧めします。
◆関連リンク
人事ブログ 久しぶりに行う! ベースアップの具体的やり方
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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