副業・兼業容認がスタンダードに?

厚生労働省は、2017年11月20日の有識者検討会で、副業や兼業を容認する「モデル就業規則」の改定案を公表しました。これまでの「許可なく他の会社等の業務に従事しない」との項目をなくし、「勤務時間外に他の会社等の業務に従事できる」「事前に所定の届け出をする」といった内容に差し替える案ということです。
 
モデル就業規則自体に、法的拘束力はありません。しかし中小企業などは、これ習った条文にしているケースも多く、一定の影響力があるでしょう。
 
政府が副業・兼業を推し進めたい狙いとしては、
 
 ① 起業・開業率の引き上げ
 ② 超高齢化社会への対応
 ③ 地方企業や中小企業への人材供給
 
といったことです。
 
では、なぜ副業・兼業を推奨することが、起業・開業率を引き上げ、超高齢化社会に対応することになるのでしょうか。
 
日本は、世界的に見ても開業率の少ない国です。それが経済成長停滞の要因の1つにもなっています。しかし、「会社を起こしましょう」と呼びかけたところで、効果はありません。特にサラリーマンが会社を辞めて、起業するには勇気が要ります。そこで、会社員の身分を維持しながら、副業でプチ起業・プチ開業ができるなら、心理的なハードルは大幅に下がります。その上で、副業の方が軌道に乗りそうなら、事業化するケースも増えるだろう、という目論見です。
 
また、人生100年時代が叫ばれる中、会社に65歳までの継続雇用を義務化したとしても、その後10年や15年は、働く気力や体力のある期間が残されています。しかも、日本人の場合、できる限り長く働き続けたい、という人が多いという国民性もあります。一方、会社の寿命は30年とも言われています。すると、平均的に見れば、働く期間の方が会社の寿命を上回ってしまうのです。そのため、1つの会社内で通用するスキルだけでなく、副業により異なったスキルや経験を得ておくことで、自らの労働環境の変化に対応できる人材になってもらおうということです。
 
最後の、地方企業や中小企業への人材供給は、どうでしょうか。たとえば、大企業のノウハウを持った人材が、副業でベンチャービジネスなどを手伝うことにより、成長を引き出せるのではないか、という発想です。
 
もし副業・兼業が拡大したとして、①~③のような狙い通りの結果につながるかどうかは分かりません。また、許可する側の会社にとっては、自社のメリットといえるようなものではないため、あまり積極的には推進しづらいでしょう。「長時間労働の是正」と矛盾するテーマにも思えますし、情報漏えいや人材流出への懸念も拭えません。
 
ただ、勤務以外の時間をどこまで拘束できるのかという人権上の問題のほか、インターネットを使った副業など、会社が把握しきれないという現実的な問題もあります。しかも、社員側の目線で見れば、容認されない理由が見当たりません。
 
これからは、同業他社での従事など、本業への悪影響を制限した上での容認がスタンダードになると思われます。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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