評価者と作る”人事評価制度”⑥
人事考課(人事評価)
前回に引き続き、人事評価制度の策定プロセスに評価者を参画させる際の、プロジェクトの進め方についてご紹介していきます。
Step1:自社が評価を行う目的を整理し、評価者と共有する
Step2:自社の職種・階層(等級フレーム)を整理し、評価者と共有する
→Step3:評価者と共に、評価体系を整理し評価項目を検討する
Step4:評価者と共に、各評価項目の基準を検討する
Step5:評価者と共に、制度の運用・改善を継続的に行う
本稿では、前稿に引き続きStep3について詳しく触れていきたいと思います。
【”プロセス”の評価項目については、評価者と共に設計することも有効】
前稿では、評価体系の整理(”結果”や”プロセス”といった観点をどのようなバランスで評価していくのか)や、評価項目の検討(整理した”結果”や”プロセス”のバランスの中で、どのようなものを評価項目として評価していくのか)については、経営陣や人事部を中心に設計していくことが基本となるとご紹介しました。しかしながら、評価体系のうちの”プロセス”の評価項目の検討においては、その限りではないと考えています。
そもそも、前稿にて「Step3は経営陣や人事部を中心に設計していくことが基本となる」とご紹介した背景には、下記のような考え方がありました。
・評価体系には、評価に対する会社の考え方を示す必要がある
・評価項目には、会社が社員に対して求める成果や姿を示す必要がある
これらの考え方を踏まえると、確かにStep3は基本的にはトップダウンで決定していくべきであると言えるでしょう。特に、売上や利益といった結果を評価するための定量的な指標については、事業計画の達成のためにもトップダウンで判断していく必要性が高いと言えます。
一方で、リーダーシップやコミュニケーション力といった定性的な項目についてはどうでしょうか。もちろん経営陣や人事部が描く人物像を示す必要はありますが、定量的な指標と比べると相対的にトップダウンで判断していく必要性は低いように感じます。むしろ、「結果だけではなく、その過程もしっかりと評価してあげたい」という”プロセス”の評価の目的を踏まえると、現場の実態と乖離が生じないように、評価者と共に項目を設計していくことも一つと言えるでしょう。
【評価者と共に”プロセス”の評価項目を設計する際の留意点】
①評価者のレベルに合わせて進め方を工夫する
いざ、評価者と共に”プロセス”の評価項目を設計するとなった場合に、評価者のレベルによっては意見が出てこないということが往々にして起こります。ゼロベースで意見交換しながら進めることも一つですが、プロセス評価項目例といったようなサンプル集やたたき台を用意しておくことも場合によっては有効です。但し、サンプル集やたたき台に目を通してしまうと、その例に縛られてしまうことは避けられません。自社の実態に則した評価作りとは、トレードオフの関係性にあることに留意して進めていく必要があります。
②なぜ重要であると考えたのか、その心を確認する
評価者からのアイデアを聞いていると、突拍子もないような評価項目案が出てくることも珍しくはありません。例えば、営業職の評価者からは、「接待力・お酒スキル」といったようなキーワードがよく出てきたりします。一見すると、「そのようなものは”プロセス”の評価項目として相応しくない」と排除してしまいそうですが、その意図を確認し、紐解いていくと、「顧客との関係構築力」を指していたりします。現場の実態に合った評価表作りのためはもちろんですが、評価者間の認識のズレを補うためにも、十分にコミュニケーションを図っていただくことが肝要です。
③予期せぬ方向に進みそうになった場合は、その場で軌道修正する
評価者と共に設計すると言っても、評価者の意見をすべて受け入れる訳ではありません。経営陣や人事部が期待する姿に対して、偏った意見や不足している観点があれば、設計者の1人として経営陣や人事部が軌道修正を試みる必要があります。但し、その場合は頭ごなしに「そうではない!」と押し付けるのではなく、なぜそのように考えるのか、その想いを共有することが大切です。
以上、Step3の「評価者と共に、評価体系を整理し評価項目を検討する」について述べてきました。次回は、Step4の「評価者と共に、各評価項目の基準を検討する」について解説したいと思います。
執筆者
辻 輝章
(人事戦略研究所 コンサルタント)
自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。