我が社にも賃上げが必要? 具体的方法③ ~コストシミュレーションを行う~

前稿では、賃上げの手段を定めた上で、金額加算 or 率加算どちらで賃上げするのか、賃金UPのアプローチについて紹介しました。本稿では、最終的な加算額 or 加算率を決定していくために、賃上げの手段に応じたコストシミュレーションの勘所について触れていきたいと思います。

 

コストシミュレーションとは、賃金UPを展開した場合に、どの程度の人件費上昇に繋がることが想定されるのかをシミュレーションすることを指します。意思決定をしていくための重要な判断軸の一つとなるため、ある程度精緻にシミュレーションしていくことが肝要です。基本給を賃金UPの手段とした場合を例に勘所を確認していきたいと思います。

 

【例:基本給を全社員一律に1万円UPしたケースのコストシミュレーション】

 

<コストシミュレーションにあたっての前提条件>
対象者: 全社員100名(内、10名は管理監督者であり残業手当支給対象外)
月間労働時間: 153時間
月間平均残業時間: 20時間(昨年度実績)
年間賞与支給月数: 4ヵ月(基本給を基礎額として算出)

 

①賃金UPによる直接的な賃金上昇金額を算出する

まずは、シンプルに賃金UPによる直接的な賃金上昇金額を算出します。本例におけるシミュレーションイメージは下記の通りです。
 

年間想定賃金上昇金額 
= 月額1万円 × 100名 × 12ヵ月
= 年間 1,200万円 …①

 
②賃金UPによる間接的な賃金上昇金額を算出する

次に、賃金UPによる間接的な賃金上昇金額を算出します。具体的には、基本給や手当UPによる残業手当や賞与への影響を織り込みます。本例におけるシミュレーションイメージは下記の通りです。
 

<残業手当への影響>
年間想定賃金上昇金額
=  1万円  ÷  153時間  × 1.25 ×  20時間   × 90名 × 12ヵ月
残業単価上昇金額  月間労働時間   割増率 月間平均残業時間 残業手当対象者
 
= 年間 約176万円 …②-1

 
残業手当への影響は、実際の残業時間次第で残業手当が大きく変動するため、コストシミュレーションでは考慮しないといった考え方も見られます。しかしながら、上記例からも分かるように、仮に昨年度実績と同じ時間の残業が発生した場合には、年間で“直接的な年間賃金上昇金額”の15%程度を占める金額が影響してきます。賃金UPを実施した後に、想定していたよりも人件費が上昇したということにならないように、コストシミュレーションに織り込んでおくことが肝要です。
 

<賞与への影響>
年間想定賃金上昇金額
=  1万円  ×  4ヵ月  ×  100名
残業単価上昇金額   年間支給月数
 
= 年間 400万円 …②-2

 
賞与への影響は、自社の賞与算定式を踏まえて必要に応じて織り込みましょう。仮に、基本給を賞与算定の基礎額に設定していないだとか、賃金UPの手段を手当とし、手当は賞与算定の基礎額に含めていないだとかであれば、賞与への影響を考慮する必要はありません。

また、賞与を賃金UPの手段とした場合には、賞与金額の上昇が残業手当等に間接的に影響してくることはないので、賞与金額の上昇分のみを“直接的な賃金上昇金額”としてシミュレーションすることとなります。

執筆者

辻 輝章 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー