変わり種の評価フロー

評価フローとは、「一次評価→二次評価」といったような評価を実施していく際のフローを指し、一般的には、一次評価は課長といったような直属上司、二次評価は部長といったような更なる上位者が担当することが多いかと思います。

 

本稿では、企業独自の背景を踏まえて、少し変わった評価フローを設定した中小企業の事例をご紹介していきます。

 

【企業Aの背景】

・社員規模25名程度(内、評価者にあたる幹部は4名)の専門性の高い事務代行業

・人材育成のために評価制度をはじめて導入するが、社員から下記不安の声が上がる

 

「二次評価や調整があるとは言え、やはり直属上司の評価に大きく左右されるのは不安だ」

 

このような社員の不安に対する代表的な問題解決アプローチとして、例えば、評価者の評価スキル向上に取り組む、評価調整の場を設定する等の手段が挙げられますが、企業Aが選択した問題解決アプローチは、社長と幹部4名の合計5名が評価者となり評価を実施するという手段でした。

 

本手段を選択するにあたり、押さえておくべきポイントは2つありました。

 

1.効果性 ~本当に適切な評価ができるのか~

1つ目のポイントは、5名の評価者が本当に適切な評価を実施できるのかといった点です。一般的に、被評価者と評価者の距離が離れれば離れるほど、評価の正確性は劣ります。しかしながら、企業Aにおいてはオフィスがワンフロアとなっており、更には、部を隔てていてもお互いの仕事内容がある程度分かるという業種特性もありました。ゆえに、5名の評価者が評価を実施するにあたって、まったく社員の仕事ぶりが分からないということはなく、何より被評価者となる社員からも賛同の声が得られたということもあり、効果性の面では問題はなさそうであるという判断に至りました。

加えて、企業Aでは評価者5名による月1回の情報共有の場を設けることも並行して導入し、本体制における適切な評価実現に向けて取り組んでいくことを決定されました。

 

2.実現性 ~本当に運用できるのか~

2つ目のポイントは、5名の評価者が一般社員20名程度全員を評価していくことができるのかといった点です。この点については、評価者の評価時の負担が少しでも軽減されるように、評価表の内容を可能な限りスリム化していくこと、年1回評価とすること(人材育成の目的から逸れないよう、期中に面談機会を設けることで対応)等、仕組み面でカバーしていくことを前提に、また事業計画において社員人数を極端に増やしていく予定はないことも踏まえて、問題なさそうであるという判断に至りました。

加えて、適切な評価実現のために設定した月1回の情報共有の場を、期末の評価を想定しながら活用していくことで、決して期末に慌てることのないように計画的に取り組んでいくことも決定されました。

 

以上、本稿では少し変わった評価フローを設定した中小企業の事例をご紹介しました。人事制度に関する問題の解決アプローチはそれぞれの企業の状況や目的によって千差万別です。考え方の例として、ご参考にいただけると幸いです。

 

 

執筆者

辻 輝章 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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