評価者と作る”人事評価制度”⑦
人事考課(人事評価)
前回に引き続き、人事評価制度の策定プロセスに評価者を参画させる際の、プロジェクトの進め方についてご紹介していきます。
Step1:自社が評価を行う目的を整理し、評価者と共有する
Step2:自社の職種・階層(等級フレーム)を整理し、評価者と共有する
Step3:評価者と共に、評価体系を整理し評価項目を検討する
→Step4:評価者と共に、各評価項目の基準を検討する
Step5:評価者と共に、制度の運用・改善を継続的に行う
本稿では、Step4について、特に評価体系のうち、”プロセス”の評価項目における基準づくりについて、プロジェクトを進める際に意識しておきたい2つの観点を紹介していきたいと思います。
(”結果”の評価項目における基準づくりについては、前稿まででご紹介した通り、トップダウンの進め方が基本的な考え方となるため、『評価者と作る”人事評価制度”⑤』にてご紹介した評価者の巻き込み方を参考にしてください。)
【基準に対する認識のズレを経営陣や人事部、評価者全員で擦り合わせる】
“プロセス”の評価項目として、例えば、コミュニケーション力といった項目が挙げられます。但し、コミュニケーション力といってもそれぞれの社員に求める基準(すなわち合格点)は、等級や職種によって変わってきます。例えば、「自ら報連相を欠かさず行うことができるのは何等級における基準なのか?」といったことに対して、ある評価者は2等級と言うかもしれませんし、ある評価者は3等級と答えるかもしれません。
このような基準に対する認識のズレは、たとえ評価表に基準が示されていたとしても、評価者が腹落ちして理解していなければ運用のなかで評価のズレとして表れてきます。ゆえに、理想としては経営陣や人事部、評価者全員でしっかりと共通の認識を持ち合わせておきたいところですが、現実としては「評価者に対して想いが伝わらない…」といったような悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
ではなぜ、評価者に対して想いが伝わらないのでしょうか。それは多くのケースにおいて、評価者は制度導入時にはじめて基準を目にする状況であることに起因しているかもしれません。確かに、「一方的に示された基準を見ることで自身の認識のズレに自身で気付き、それを自身で修正してください」という要望は、評価者の立場からするとなかなか難易度が高いことであると言えるかもしれません。その他にも、一方的に示された基準に対して、心理的に壁を感じてしまっているがゆえに理解が進まないといった状況も考えられるかもしれません。
これらの状況を踏まえると、経営陣や人事部、評価者全員で共通の認識を醸成していくためには、基準作成の段階から評価者を巻き込み、経営陣や人事部の想いを評価者に伝えていくことが有効な手段の一つであると言えるでしょう。特に、「評価者の視座が低い」といったような評価者に対する問題意識を抱えている企業においては、「そもそも皆さんにはこのレベルの役割や行動を求めている」ということを、ぜひ評価者と向き合って伝えていただければと思います。
【基準として言語化できないニュアンスを経営陣や人事部、評価者全員で共有する】
最終的に評価表のなかで基準として言語化できる内容には限界があります。これは、あまりに具体的な基準を用意してしまうと、評価対象者全員に当てはまらない内容が混ざってしまったり、今後数年のうちに内容を書き換える必要性が生じてしまったりと、汎用性や耐久性に問題が発生してしまうことが理由として挙げられます。ゆえに基準作成は、ある程度抽出的な表現に留めておくことがポイントであると言えます。
しかしながら、抽出的な表現ゆえに発生してしまうのが評価者による評価のズレです。多くの場合、これら評価のズレは制度運用の段階に入ってから、例えば評価者研修のような機会を設けて、基準として言語化できていない内容をコミュニケーションで補っていくことになります。
但し、それだけではなかなか経営陣や人事部が思ったように評価のズレを是正し切れていないというのが現状ではないでしょうか。それは、多くの評価者研修では評価者間での目線合わせの機会はあったとしても、そもそも基準がどのような背景で作成されたのか、経営陣や人事部の想いを知る機会に欠けるところに起因しているのかもしれません。そのような状況では、基準として言語化されていない部分は各評価者で補完されることになり、経営陣や人事部がイメージする基準とは違う形で捉えられてしまう可能性もあります。
これらの背景を踏まえると、経営陣や人事部、評価者全員で共通の認識を醸成していくためには、基準作成の裏に秘められた言葉では表現できなかった具体的なイメージをいかに評価者に共有できるかが重要であると言えるでしょう。特に、「評価にバラつきがある」といったような評価者に対する問題意識を抱えている企業においては、「そもそも経営陣や人事部として、皆さんにこのような姿を求めている」ということを、ぜひ評価者と向き合って伝えていただければと思います。
以上、Step4の「評価者と共に、各評価項目の基準を検討する」について述べてきました。本Stepに関しては費やした時間に比例して評価制度運用の精度が向上すると考えられます。時間の許す限りではありますが、徹底的に基準の擦り合わせを行っていただくことをお勧めします。次回は、Step5の「評価者と共に、制度の運用・改善を継続的に行う」について解説したいと思います。
執筆者
辻 輝章
(人事戦略研究所 コンサルタント)
自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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