等級基準書の活用②

前回は等級基準書の活用方法について紹介しました。今回は、等級基準書を社員に浸透させるためのポイントを5W1Hの観点で考えていきたいと思います。

 

1.Why ~何のために等級基準書が整備されているのかを押さえる~

等級基準書が形骸化してしまう理由の一つとして、そもそも等級基準書が何のために整備されているのかを社員が十分に理解していないことが考えられます。

心理学の世界では、「人の行動には必ず目的がある」と言われており、対偶を考えると、「目的がなければ人は行動できない」と捉えることもできます。

等級基準書を形骸化させないためにも、まずは自社が何のために等級基準書を整備し、何に活用していくことを意図しているのか、「Why」の要素を押さえることが肝要です。

 

2.Who ~どの層から浸透を図るのか~

全社員一律に等級基準書の浸透を図れるのであればそれに越したことはありませんが、思ったように浸透しなかったという企業も多いのでないでしょうか。その原因の一つとして、キーマンとなる管理職の協力が得られていなかったということが考えられます。

等級基準書の活用方法を踏まえると、浸透にあたっては評価者となる管理職の協力が不可欠です。言い換えると、管理職が等級基準書を活用しながら人事評価や人材育成に取り組んでいくと、部下にとっては必然的に等級基準書が身近なものとなっていくことが想定されます。

 

3.When ~どのタイミングで等級基準書を参照するのかを示す~

等級基準書は常に見るものではないため、見るべきときにタイミングを逸してしまったということが起こりがちです。下記表は、時間軸に沿って等級基準書を参照するタイミングの例を整理したものです。自社の状況に応じて整理し、社員に示しておくことも一案です。
 

タイミング

内  容

期 首

目標管理における自身の目標設定時、部下の育成計画立案時 等

期 中

上司と部下の定期面談時 等

期 末

人事評価のフィードバック面談実施時、部下の昇降格に関する判断時 等

 

4.Where ~どこで参照できるのかを示す~

等級基準書は常日頃から頻繁に見るものでもないため、例えば、紙で配布しているのであれば専用のファイルを個人ごとに作成して保管する仕組みを整備するとか、フォルダにアップロードしているのであれば格納場所の周知を徹底するとか、管理の工夫が求められます。このような工夫は、本来であれば社員一人ひとりが自身で実施していくことが理想的ですが、浸透に向けて会社が一定のレールを引いてあげることも一案です。

 

5.What ~等級基準書そのものをブラッシュアップしていく~

等級基準書が形骸化してしまう理由の一つとして、等級基準書の内容が実態に則していないといったことが考えられます。外部・内部環境の変化に伴って、社員に求める要素に変化が生じているのであれば適宜見直しを図っていくことが肝要です。

加えて、等級基準書を活用していくなかで社員にとって分かりづらい表現があるのであれば、より社員に馴染みのある表現や分かりやすい表現に見直していくことも一案です。

 

6.How ~中長期的に向き合う~

等級基準の浸透は一朝一夕で実現できるものではありません。地道に長い年月をかけて、ようやく習慣化していくものであることを押さえておかなければなりません。浸透を図る立場の経営陣や人事部は、一度伝えただけで伝えたつもりにならず、機会あるごとに根気強くアナウンスしていくことが求められます。等級基準を整備した当初の目的に立ち返りながら、中長期的に取り組むことが肝要です。

 

以上、今回は等級基準書を社員に浸透させるためのポイントについて紹介しました。想いを持って作成した等級基準書を有効に活用していくために、ご参考にいただけますと幸いです。

執筆者

辻 輝章 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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