非正規社員が、人件費対策になる時代は終わった!
人事制度
過去20年は、デフレ経済が長引く中、非正規社員化が進んだ時代でした。流通業界をはじめとして、売上の低迷期を、非正規社員増加による人件費抑制で凌いできたのです。
ところが、今後はそうはいきません。以下は、今後予定・予測される、政府の主な非正規社員政策です。
1.短時間労働者に対する社会保険の適用拡大
2016年10月より、短時間労働者のうち社会保険加入の義務づけが、週30時間以上勤務から、以下の基準を全て満たす対象者に拡大される。
① 週20時間以上
② 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
③ 勤務期間1年以上見込み
④ 学生は適用除外
⑤ 従業員501人以上の企業(適用拡大前の基準で適用対象となる労働者の数で算定)
※2019年以降は従業員500人以下の事業所も適用予定
2.正社員転換・待遇改善実現プランの決定
厚生労働省において、今後5か年の非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善のための様々な取組が決定。
・主要目標:不本意非正規雇用労働者の割合 10%以下(2014年平均18.1%)
・待遇改善:正社員と非正規雇用労働者の賃金格差の縮小を図る。
3.最低賃金、全国平均で1,000円を目指す
安倍晋三首相が経済財政諮問会議で、最低賃金を「年3%程度を目途に」引き上げ、「全国加重平均で(時給)1千円を目指す」と表明。2015年の最低賃金は全国平均で798円、年3%引き上げると2023年に1,000円に到達。更に政府内には、2020年頃を目途に1,000円を目指すという案もあり、その場合は年5%のハイペースで引き上がる計算となる。
4.「同一労働同一賃金」の実現方針
政府は正規・非正規に関わらず同じ職務の労働者に同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」を法制化する方針を固めた。改正パートタイム労働法の規定を、派遣労働者らにも広げる。
非正規雇用の待遇を改善するため、仕事の習熟度や技能といった「熟練度」を賃金に反映させるよう、2016年秋もしくは来年にも法改正を目指す。正社員と同じ仕事なら同じ賃金水準にする「同一労働同一賃金」の実現に向け、経験豊かで生産性の高い派遣社員らの賃金を上がりやすくする。
まずは、「通勤手当」「出張旅費」「店長手当などの職責手当」「業務実績に基づく賞与」などの処遇格差是正を掲げている。
これらは、日本だけの動きではありません。低賃金労働者の処遇底上げによる格差是正は、先進諸国共通のトレンドといえるでしょう。
既に、アメリカでは、ニューヨークやサンフランシスコなど主要都市の最低時給は、15ドルに引き上げられることが決定しています。15ドルといえば、1ドル110円で計算して1,650円です。月160時間勤務としても月額264,000円、日本の平均大卒初任給を大幅に上回ります。
もちろん、政府の各政策にしても、いきなり全て実施されるわけではありませんが、「非正規社員=低賃金」で雇用できる時代は、終焉を迎えたのではないでしょうか。
特に、これまで他業界に先駆け、非正規社員化を進めてきた業界ほど、厳しい時代が到来したといえるでしょう。
企業にとっては、人手不足解消に取り組みつつ、非正規社員も含めた人員計画や人件費計画が、より一層重要となることは間違いありません。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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