中長期視点でシニア社員が活躍できる環境を整備できているか?
労務関連
65歳への定年延長または70歳までの継続雇用という形で雇用延長を推進する企業が増えてきています。しかしながら、大半は「制度的な枠組み」として雇用延長を推進しているにとどまり、本質的にシニア社員が活躍できる環境を組織内で整備できている企業は多くありません。制度的な枠組みは確かに重要ですが、シニア活躍の観点からは対症療法的な限定的効果しか見込めません。これらの制度的枠組みを土台として、シニアがより長く活躍できるような計画的な組織開発を中長期視点で進めていくことがより重要であるというのが筆者の所感です。
図表①をご覧ください。これは企業がシニア活躍を推進するために必要な、あるべき組織開発のアプローチ方法について筆者がまとめたものです。それぞれについての細かい説明はここでは省きますが、大半の企業ではシニア活躍の取り組みにおいてStep①~③を経ていない印象があります。その理由としては前述のように、「制度的な枠組み(ここではStep④)」をまず先行する企業が多く、その土台となるシニア活躍を推進していく計画が無い、または弱いことにあります。
<図表①シニア活躍を推進するための、あるべき企業アプローチ>
もっとも、Step①~③はどの企業においても取り組みが弱く、またそうならざるを得ない現実的な理由も多くあります。例えば、
・シニア活躍の環境整備に経営資源を割く余裕がない
・他社事例が少なく、情報・ノウハウがない
・緊急の問題ではない(そこを省いても当面の対応はできる)
といったことが挙げられます。
但し、Step①~③が十分でない状態で制度的な枠組みが先行しすぎてしまうと、中長期視点では組織に様々な問題が生じてくると考えられます。具体的には、
・各種施策が短期的あるいは断片的になりやすく、長続きしない(目指すゴールが無い状態)
・目の前の課題解決にはなっている気になるが、着実にシニア活躍が理想形に向かって進んでいるようには感じられない
・Step②③を重視する経営層と、Step④の運用を重視する実務者層との間で、方針の相違が生じてくる
・結果的に、シニア活躍というテーマ自体が組織内で重くなり、必要性を感じつつ優先度が下がる
という状態に陥ってしまう危険性をはらんでいます。
こうした状態は言わば、表面だけ取り繕って中身の本質的な問題を覆い隠しているのと変わりなく、そのうちに誰も問題の大きさを把握することができなくなり、気付けば組織全体が取り返しのつかない事態になる、といった可能性も否定できません。そうならないよう、シニア活躍に向けて「あるべき姿」を描き、その上で「現実」に正しく向き合い、時間をかけて必要な取り組みを進めていく姿勢が不可欠であると考えます。
図表②をご覧ください。ごく一部の「シニア活躍先進企業」と言われる企業群では、大企業か中小企業かに係わらず4つのステップを(程度の差こそあれ)重視して取り組みを継続(今も)していきていることが見てとれます。本質的にシニア活躍を推進していくために時間とコストが必要であることを意識した上で他社よりも5年、10年あるいはもっと早く取り組みを開始してきているため、非常に大きな差が開いている状態です。
<図表②「シニア活躍」先進企業と一般的な企業との違い>
これからシニア活躍に本格的に取り組もうとする企業にとって、先進企業との取り組みスピードの差は非常に大きいものがありますが、決して遅すぎるということもありません。これからの5年、10年先を見据えてシニア活躍の取り組みを推進することで、骨太な組織作りを目指していきましょう。
執筆者

森中 謙介
(人事戦略研究所 シニアマネジャー)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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