みなし残業代制度に関する裁判例動向

「みなし残業代制度」については以前も当ブログで紹介し、各企業でも一般的になっているという話をしました。ただ、法律を守りながら実務でどうやって運用するかについては、裁判所の判断も下級審レベルの判決が多く、曖昧な部分が残っていました。
この点、少し前になりますが、みなし残業代制度の合法性について判断した最高裁判決が平成24年に出ていますので、紹介します(「テックジャパン事件」最高裁一小平24.3.8)。
本件は、月額基本給の中に一定の残業代(みなし残業代)が含まれていると言えるかどうかが争われた事案で、請求自体は棄却されましたが、裁判官の補足意見の中で、みなし残業代制度が認められる要件について、次のように詳しく触れられています(以下、抜粋)。
 
「…使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは、罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため、時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない…最高裁平成6年6月13日判決は、通常の労働時間の賃金に当る部分と時間外及び深夜の割増賃金に当る部分とを判別し得ることが必要である旨を判示したものである…。」
 
「…便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる…。」
 
以上をまとめると、①みなし残業代制度におけるみなし残業代ないしみなし残業時間が、労基法所定の計算方法において適法に計算できる内容であること(そのため、例えば「基本給の中に残業代を含む」といった規程では具体的な計算が出来ないので無効である)、②実残業時間との比較で、みなし残業代を超える部分については別途残業代を支払うこと、以上を就業規則に規程しておくことが必要になります。加えて、③雇入れ時に労働条件通知とともに、みなし残業代制度を適用する旨とその具体的な内容についても周知させることが必要になってくるでしょう。
 
こうした運用が、この度最高裁レベルで補足意見とは言えコメントされたことを受け、各企業においても上記ルールに沿った運用今後は必須となり、また定着してくるものと思われます。

執筆者

森中 謙介 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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