独身寮制度を充実させる際の観点とポイント

人手不足、初任給の上昇など、今後もますます人材の採用や定着が難しくなることは間違いないといって良いでしょう。

多くの企業では人材の採用や定着を強化するために、賃上げ以外にも多様な働きやすさ(勤務地限定制度・在宅勤務制度・短時間勤務・副業OKなど)や福利厚生(住宅補助、研修制度など)を充実させるための施策を実施するなど工夫をしています。

人材の採用や定着を強化するために見直すべき施策は様々ありますが、本稿では過去導入したきりになりがちな「独身寮制度」にフォーカスを当て、①入居上限年数、年齢、②負担金額といった条件面の観点で充実させるポイントをご紹介します。

 

①入居上限年数、年齢

A:対外的な視点 ~世間や競合他社に見劣りしないようにする~

まずは競合他社と条件を比較し、見劣りしないように改善することが肝要です。口コミサイトや採用サイトなどインターネット上で入手できる情報や、人事交流会などオフラインの場面で確認するといったことが挙げられます。

他には、以下のような調査結果を参考にすることも一案です。ある調査(*1)によると、独身寮制度を導入している企業のうち「入居制限あり」としている企業は約85%、そのうち年数期限平均は8.6年、退去年齢平均は32.7歳というデータが出ています。ただしこれはあくまで全体的な平均値であるため、上述したように競合となりうる他社の条件等も勘案し決定すべきでしょう。

たった数年の差で採用競争力に影響が出ることを考えると、機会損失の回避に向けて多少の原資増が見込まれても他社に見劣りしないよう改善することが大切です。

 

B:対内的な視点 ~退職傾向のデータを分析する~

実際の事例ですが、ある企業で退職者の年齢や勤続年数の分布傾向を整理したところ、独身寮の退去年齢(年数)と退職者の年齢(勤続年数)がおおよそ比例関係にあることがわかりました。加えて、一部の退職者に対してヒアリングを行ったところ「ぼんやりと転職を考えていたタイミングと寮の退去期限が重なったので、離職を決意した」といったような回答も得られました。退去年齢(年数)が退職を後押しするトリガーになっていたということです。

このような場合には、整理した退職者の年齢や勤続年数の分布をもとに退去年齢や年数を見直すことも一案です。

 

②負担金額

A:対外的な視点 ~世間や競合他社に見劣りしないようにする~

入居上限年数、年齢の観点と同様です。先ほどと同じ調査データ(*1)によると、独身寮の平均敷地面積は18.6㎡、入居者の平均負担額は11,380円です。明らかに見劣りしている場合は採用や定着に影響が出る可能性も高まるため、世間や競合他社に合わせにかかりましょう。

 

B:対内的な視点 ~年数や年齢で傾斜をつける~

負担金額は低ければ低いほど得られる効果性は高いですが、企業に「原資」があることが前提となります。仮に、原資が限られている場合には、年数や年齢で負担金額に傾斜をつけることも一案です。

具体的には年数や年齢が浅ければ(低ければ)負担金額を下げ、反対の場合は負担金額を上げるということです。

 

また上記の他に、住みやすさの向上、住みにくさの軽減も独身寮制度を充実させるためには効果的と言えます。

集合生活ということを踏まえると、特に衛生的、時間的な面での影響が多く出ることが懸念されるため、それらに焦点を当てたアプローチが有効でしょう。

衛生的な面では、例えば、浴場(内部や脱衣所)や洗面所のアメニティをリニューアルするといったことが挙げられます。

時間的な面では、待ち時間をなくすという目的で洗濯機の台数を増やす、通信環境を改善するなどがあるでしょう。

また、門限の設定など、寮の運営上の都合で設定している条件を見直して、住みにくさを軽減するということも一案です。

 

余談ですが、筆者の個人的見解としては、「共用スペース」に費用をかけることもお勧めします。独身寮のメリットの1つに先輩と後輩・同期社員同士のコミュニケーションが図りやすくなる、ということが挙げられます。特に会社規模が大きくなると、自身が所属しない部署や業務も多々あり、会社の全体像や他部署の具体的な仕事内容をつかむことが難しい(もしくは時間がかかる)ということが起こります。独身寮の場合、さまざまな部署の先輩や同期とコミュニケーションをとりやすい環境にあるため、若手社員の育成(特に会社理解・仕事理解)という面でもメリットは大きいといえます。年次関係なく共用スペースに人が集まる(集まりやすくする)ことで上記のような副次的な効果も期待できるでしょう。

 

独身寮制度を充実化しようと考えられている、もしくは全く手を付けられていなかったという企業にとって少しでも参考になれば幸いです。

 

(*1)日本経済団体連合会「第64回福利厚生費調査結果報告2019年度(2019年4月~2020年3月)」(2020年11月17日)

https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/129_honbun.pdf

 

執筆者

長尾 拓実 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職では、中小企業を中心とした採用支援事業に約3年間従事。
企業・求職者双方と接する中で、働き甲斐ある職場の実現において社員一人一人が活きる組織づくりが重要だと実感。
この経験を通じて「組織づくりを基軸に中小企業の成長に貢献したい」と想い新経営サービスに入社。
課題に対して粘り強く、企業の良さが活きるコンサルティングを心掛け日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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