昇格制度はなぜ機能していない?「昇格リスク」から考える原因と解決策

昇格ハードルは高くても低くても問題を招く

「なぜ自分はまだ昇格できないのか?」「なぜあの人は昇格したのか?」など昇格に関する悩みや問題についてご相談を受けることがよくあります。等級制度を機能させるには昇格制度が重要となりますが、本記事では、日本の多くの企業で採用されている職能等級を想定し、昇格制度を適切に設計するためのポイントを解説します。

 

まずお客様からお伺いする問題を整理すると、以下の2つに大別されます。1点目は「昇格ハードルが高い」ことにより生じる問題です。例えば昇格要件として、3年連続A評価の取得や高難度の資格取得など高いハードルを設定した結果、なかなか昇格できずに滞留する社員がやる気を失い、場合によっては離職につながる、というものです。

 

2点目は「昇格ハードルが低い」ことにより生じる問題です。上記とは反対に昇格要件として、年間評価をA評価1回とるだけで昇格可能という低いハードルを設定した結果、対象者の見極めが不十分なままに昇格させることで、昇格後の期待水準を満たさない社員の発生につながることがある、というものです。このような場合、高い等級・給与と本人の貢献が釣り合っていない社員に対する不公平感が生じる、あるいはその解消に向けて降格させようとしても組織人事や法務の面でのトラブルから難航する、ということもよくお伺いします。

 

さらに難しいのが、この2点の問題がトレードオフの関係にあるということです。「昇格ハードルが高い」問題に対処するために昇格ハードルを下げると、今度は後者の「昇格ハードルが低すぎる」問題が生じるリスクが生じます。さらに逆もまたしかりです。

 

 

等級ごとに優先するリスクを見極める

ではこの昇格制度は、どのように設計したらよいのでしょうか。どう転んでもリスクが避けられないのであれば、ひとつの方向性はどちらのリスク回避を優先するのか(つまり、どちらのリスクを許容するのか)を、等級ごとに考えるというものです。

 

例えば下位等級は若手のキャリア形成期にあたるのであれば、定期的な昇格によるステップアップ感により成長の動機を促すことが重要だといえます。であれば「昇格ハードルが高い」ことによりやる気を失ったり離職したりするリスクの回避が優先的されるでしょう。

 

一方で、非管理職から管理職(あるいは高度専門職)へ昇格するタイミングにおいては、期待される内容が大きく変わる節目でもあります。プレイヤーとして優秀な社員がマネージャーとしても優秀だとは限らないこと等を踏まえると、「昇格ハードルが低い」ことにより昇格後の期待水準を満たさない社員を昇格させてしまうリスクの回避が優先されるでしょう。このように、等級ごとにどちらのリスクを優先するのかを定めた上で、それを踏まえて昇格制度を設計するとよいでしょう。

 

そして、昇格判定に関わる管理職が「等級毎の昇格に伴うリスク」について共通認識をもったうえで、昇格を実際判定する際に、そのリスクも加味して検討・擦り合せを行うことが重要です。昇格制度を設計する・見直す際に参考にして頂ければと思います。

執筆者

長尾 拓実 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職では、中小企業を中心とした採用支援事業に約3年間従事。
企業・求職者双方と接する中で、働き甲斐ある職場の実現において社員一人一人が活きる組織づくりが重要だと実感。
この経験を通じて「組織づくりを基軸に中小企業の成長に貢献したい」と想い新経営サービスに入社。
課題に対して粘り強く、企業の良さが活きるコンサルティングを心掛け日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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