2025年の賃上げ見通しと、賃上げ率の計算方法

1.2025年の賃上げ見通し
2025年の賃上げ率は、5%弱と予測されています。これは2023年の4%より高く、2024年の5%強からやや鈍化するものの、依然として高い水準です。もともとの定期昇給部分が2%程度なので、定期昇給を除いたベースアップ部分は3%程度ということになります。労働組合の全国組織である連合が、全体で5%以上、中小企業は6%以上という目標を掲げていますが、中小企業はともかく、全体では5%程度近くまで実現しそうな感じです。
 
5%近くまで賃上げが実現しそうな理由は、何と言っても大企業を中心に企業業績が安定していることが大きいです。製造業は業績の厳しいところも出てきましたが、インバウンドで小売業や飲食業、宿泊サービス業などが好調です。DXなどでIT関連も良いです。金利上昇やNISAなど投資意欲拡大で、金融関係も良いところが多いです。また、人手不足や物価高が続いており、最低賃金も50円以上上がっており、これら全てが賃上げを後押ししています。
 
一方で、物価上昇率や企業業績の伸びは2024年初めと比べて鈍化が見込まれています。特に中小企業では2023年、2024年と、業績と関係なく無理して上げてきた会社も多く、連合が言っている「中小企業は6%以上」というのは、かなり厳しいでしょう。業績や賃上げ余力を反映するなら、大企業は5%でも、中小企業は3~4%といった水準が精一杯ではないでしょうか。
 
2.中小企業が高い賃上げ率を実現するには
連合が中小企業の目標を6%以上と言っているのは、企業規模による格差是正の意図があります。厚生労働省の調査によると、年収ベースで1000人以上の大企業を100とすると、100~999人の中企業は90弱、100人未満の小企業は80弱となっています。大企業と中小企業の賃金格差があるのに、賃上げ率も大企業の方が高いと、ますます企業規模差が大きくなります。
 
では、中小企業が高い賃上げ率を実現するためには、どうすればいいのでしょうか?もちろん中小企業にも余裕のある会社と余裕のない会社があります。前者は良いとして、後者については、やはり①値上げと②省力化でしょう。実際、原材料費の高騰と、インバウンドの効果もあって、飲食店やホテル・旅館などは、大幅に値段を上げるところが増えています。100円ショップも100円ではない商品が増えていますし、回転寿司も100円ではなくなってきています。省力化についても、飲食店ではタッチパネルやスマホでの注文や配膳ロボットが活躍しています。小売業でも、自動精算機が増えてきました。一方で、法律や規制で自由に値上げできない業種、介護や医療業界などは、国が補助を強化することになるでしょう。
 
3.賃上げ率の計算方法
そもそも「賃上げ率」は、どのように計算するのでしょうか?実は、これは難問です。おそらく、人事担当者の多くは、頭を悩ましていると思います。基本給だけの昇給率なのか、その他の手当も含んだ給与の昇給率なのか迷います。
 
結論を言うと、厚生労働省の用語定義に、「1人平均賃金の改定額」は、1人平均賃金の改定後と改定前の差額を指すとなっています。「1人平均賃金の改定率」は、1人平均賃金の改定額の改定前1人平均賃金に対する割合です。さらに、「1人平均賃金」は、所定内賃金(諸手当等を含むが、時間外・休日手当や深夜手当等の割増手当、慶弔手当等の特別手当を含まない)の1か月1人当たりの平均額を指すことが示されています。すなわち、残業代などを除く固定的手当も含んだ月給が、改定前よりどれだけ上がったかが、賃上げ額や賃上げ率の定義ということになります。
 
一方、昇給は基本給に対して行うのが一般的ですので、基本給のアップ分を賃上げ率と捉えている企業もあります。純粋な賃上げという意味では、こちらの方が実態を表しているようにも思います。先ほどの厚生労働省の計算方法だと、昇進して役職手当が上がった分、家族構成や住宅環境が変わった場合の家族手当や住宅手当の変動も含まれることになります。そのため、「昇給率」という表現を使う場合には、基本給だけをベースに考えている会社が大半と思います。
 
また、企業の賃上げを後押ししている「賃上げ促進税制」では、残業代や賞与など年収全体で捉えることになっています。月給を上げる代わりに賞与を引き下げる企業に、税金優遇するのはおかしいからです。なので、賃上げ率といっても、使う目的によって異なるということになり、これがややこしさの原因です。
 
 
さて、2023年以降に本格化した賃上げ。2025年こそは、物価上昇分の影響を差し引いた実質賃金ベースでも、プラスになるかどうかが焦点です。大企業は前向きな動きを見せていますが、問題は中小企業でしょう。無い袖は振れないと言いますが、過去2年は無い袖を無理やり振ってきた感があり、多くの会社は息切れしそうになっています。生産性を高めて賃上げ余力を確保できるか、2025年は中小企業にとって正念場の年になりそうです。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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