報奨金制度の効果と副作用

報奨金制度とは、特定の貢献を達成基準までやり遂げた場合に賞金を支給する仕組みのことを言います。全社・事業所・個人の売上・利益目標達成、特定の商品・サービスの販売促進、或いはコスト削減・業務効率改善等を力強く推進していくための手段の一つとして、導入を検討してみたいといった企業も多いのではないでしょうか。本稿では、報奨金制度の効果と副作用についてご紹介したいと思います。
 
〈報奨金制度の効果〉

特定の貢献を、例えば「商品Aの販売促進」と設定したケースを題材に確認していきましょう。
 
まずは、商品Aの販売という貢献を通常の人事評価のなかで評価し、処遇(給与改定や昇降格、賞与)に反映する場合のイメージです。
 

通常の人事評価のなかで評価し、処遇に反映する場合

この場合、商品Aの販売という貢献は“結果の評価”における一つの要素に過ぎず、処遇に反映される最終評価においての影響力は限定的であると言えます。仮に、商品Aの販売に大きく貢献したとしても、その他の評価項目の点数がイマイチであれば、ウェイト設定次第ではありますが、最終評価は伸びず報酬には紐付きづらいと言えます。
 
次に、商品Aの販売という貢献を独立して評価し、報奨金という処遇で反映する場合のイメージです。
 

報奨金という処遇で反映する場合

 
この場合、商品Aの販売という貢献は直接的に報奨金という処遇に反映されることが明確であり、非常にメッセージ性の強い手段であると言えます。重点取り組み事項や施策等に対する目標達成意識やモチベーションの向上を狙うという点では、報奨金制度は効果的な手段と言えるでしょう。
 
一方で、報奨金制度を効果的な手段として活用していくためには、その副作用についても押さえておかなければなりません。
 
〈報奨金制度の副作用〉

1.本来の狙いと異なる行動を誘発する恐れがある
前述の通り、報奨金制度は貢献と処遇の関係性が明確であるため、どれだけの貢献がどれだけの報奨金として支給されるかが比較的簡単に計算できてしまいます。目的の達成に向けて魅力的な報酬金設定となっているであろうことを踏まえると、売上利益目標や販売促進のための顧客本位ではない行動(例えば、顧客ニーズに合わない提案、中長期的な関係性を度外視した短期目線での提案等)や、コスト削減のための表面的な行動(とりあえずの改善提案、数値目標達成のための誤魔化し等)を誘発する恐れがあることには留意が必要です。
 
2.支給対象外の部門や社員のモチベーションダウンの恐れがある
目的の達成に向けた報奨金制度であるため、例えば、商品Aの販売促進のための報奨金制度であれば、対象者が営業社員のみであるといった設定も想定されます。その場合には、支給対象外の部門や社員(例えば、商品Aを生産している製造部門の社員、営業活動をサポートしている間接部門の社員等)のモチベーションダウンには留意が必要です。
 
以上、本稿では報奨金制度の効果と副作用についてご紹介しました。副作用は限定的、或いは多少の副作用があったとしてもそれ以上の効果性が期待できるということであれば、報奨金制度の検討を具体的に進めていきましょう。一方で、特定の貢献を直接的に処遇に紐づけることに違和感があったり、副作用の影響を無視できなかったりする場合には、通常の人事評価のなかで目標達成に向けた施策や工夫を講じていくことに注力すべきと言えるでしょう。報奨金制度導入を検討される際にご参考にいただけますと幸いです。

執筆者

辻 輝章 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー