人事部門の役割・成果とは
人的資本
離職防止を重要な経営課題として解決に取り組む人事部門は多いでしょう。では、離職防止に関して、人事部門の成果とは何でしょうか?昨今、人的資本経営という文脈の中で、人事部門の取り組みが経営全体にどのようなインパクトを与えるかが注目されています。「離職が減った」というのも、もちろん成果です。ただ、経営全体に与える影響度から成果を捉えることも、取り組みの意義や人事部の存在感を示すためにも重要です。
そこで今回は、離職防止という観点から人事部門の取り組みが経営全体に与える影響を考えたいと思います。
○ISO30414からみる離職による経営全体へのインパクト
人的資本開示の国際規格であるISO30414では、離職がもたらす経営へのインパクトを一定期間中の離職により発生する費用や機会損失という形で指標化しています。算出式は、以下の通りです。なお、算出式という形で示していますが、成果を定量的に示すことをお伝えしたわけではありません。経営全体へのインパクトという観点から、どういった要素が離職により左右されるかを考察するために、本ブログではご紹介しています。
これだけでは算出式の意味合いが分かりづらいため、要素ごとに仕分けすると、下図のように解釈することが可能です。
○離職を防止することが、会社にどのようなプラスをもたらすか?
上図を踏まえて、離職防止に向けた人事部門の取り組みが経営全体にどのような影響を与えるかを整理すると、以下の通りです。
A:追加人員補充コストを他の投資に回す余地が生まれる
当たり前ですが、追加人員を補充するために余分なコストがかかってしまいます。離職が抑えられると余分なコストを抑えられますし、そのコストを他の投資(例:処遇改善や職場改善など)に回せることは会社にとって大きなプラスといえるでしょう。
B:離職者の業務カバーや諸手続き発生に伴う業務負荷が解消する
ご承知おきの通り、離職が発生すると業務カバーや諸手続きが発生し、非効率です。場合によっては、現場社員に過度の負荷をかけてさらなる離職を誘発するリスクもあります。
現場からみると、離職者が減ることはこういったマイナス解消につながり、人事部門の貢献といえます。
C:離職に起因した機会損失を防ぐ
離職に起因した機会損失とは、「人がいないから、仕事が受けられない」といった内容です。ただ、見落としがちですが、以下の点も会社にとって重大な機会損失です。
・新入社員が離職したことで、成長すれば数年後得られるはずだった付加価値をロスした
・欠員をカバーするために管理職総出で仕事を回した反面、中期経営計画など先を見据えた取り組みが手つかずになってしまった
これらは目に見える形で不利益を実感しづらいですが、企業活動の歩みを止めてしまうため会社にとっては大きな痛手です。だからこそ、離職防止における人事部門の最大の成果であると私は考えています。
○人事部門の存在感を高めるために
今回は、経営全体に与える影響という視点から人事部門の成果を考えてみました。冒頭にも述べた通り、昨今、人的資本経営という文脈の中で、人事部門の取り組みが経営全体にどのようなインパクトを与えるかが注目されています。また、このような考え方をもって人事部門への期待感を示す経営陣も増えてきたように思います。人事部門の役割や成果を、経営的視点から語っていくことが益々求められるでしょう。
今回は、離職防止を題材にしましたが、人事部門が行う取り組みはこれだけではありません。その他の施策も、どのようなインパクトを与えるかを考えてみてはいかがでしょうか。
執筆者
岸本 耕平
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)
「理想をカタチにするコンサルティング」をモットーに、中堅・中小企業の人事評価・賃金制度構築に従事している。見えない人事課題を定量的な分析手法により炙り出す論理的・理論的な制度設計手法に定評がある。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。