70歳までの雇用が義務化されるのは、いつごろか?

1:高齢者雇用安定法とは

 

高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は、少子高齢化を見据え、日本の生産年齢(15~64歳)の人口割合の減少が予想される中、労働人口の確保に向けて「働く意欲を持った高齢者が長く働けるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的に制定された法律です。

1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が始まりであり、その後1986年に今の高年齢者雇用安定法に改正されました。

 

その後、1994年には、60歳定年の義務化(1998年施行)、2000年には定年の引上げ等による65歳までの高年齢者雇用確保措置の努力義務化がなされました。

2000年の努力義務化から、4年後の2004年には、65歳までの希望者の雇用が義務化されました。ただしこの時の改正では、企業側が継続雇用をする対象者を選別可能な経過措置がとられていました。事実上、65歳までの雇用確保措置が義務化されたのは2012年の法改正(2013年施行、但し2025年までの12年の経過措置あり)となります。

そして2020年改正高齢者雇用安定法が成立し、「70歳までの就業機会確保措置」(2021年4月施行)が努力義務化された、という経緯です。以下に改定の経緯をまとめています。

 

高年齢者雇用安定法のこれまでの経緯
1986年 ○60歳定年の努力義務化 (1986年10月1日施行)
1994年 ○60歳定年の義務化 (1998年4月1日施行)
2000年 ○定年の引上げ等による65歳までの高年齢者雇用確保措置の努力義務化(10月1日施行)
2004年 ○高年齢者雇用確保措置の法的義務化 (2006年年4月1日施行)
2012年 ○希望者全員の65歳までの雇用確保措置の法的義務化 (2013年4月1日施行)

※継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止2025年度までの12年の経過措置

2020年 ○「70歳までの就業機会確保措置」の努力義務化(2021年4月1日施行)

 
 
2:70歳までの就業機会確保措置とは

 

この70歳までの就業機会確保措置は、事業主に以下の(1)~(5)のいずれかを講じるように努めること、を法制化したものです。

 

(1)70 歳までの 定年の引上げ

(2)定年制 の廃止

(3)70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

(4)70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

(5)70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

現時点では努力義務ですので、2000年に施行された「65歳までの高年齢者雇用確保措置の努力義務」と同等の措置といえるでしょう。

 
 
3:70歳までの雇用はいつ本格化するのか

 

では70歳までの希望者全員の雇用義務化がなされるのは、いつ頃になるのか?制度面における移行時期に悩まれる企業様も多いことでしょう。

これまでの高齢者雇用安定法の経過によれば、1986年に「60歳定年」の努力義務化がなされてから、12年後の1998年には法的義務化がなされました。

また65歳までの雇用確保措置は、2000年に「努力義務化」され、2006年に「法的義務化」がなされたということになります。企業側に対象者選定の余地を残していたとはいえ、努力義務化から6年、という期間で法的義務化がなされたことになります。これはいわゆる「団塊世代(1947~1949年生まれ)」の60歳到達に間に合う形で施行されたといえます。また希望者全員の65歳までの雇用確保措置が法的に義務化されたのは、2013年(経過措置あり)であり、13年を経て完全義務化がなされました。2025年まで、企業側が適用基準を設定することを許容する経過措置が設けられていますが、実際に経過措置を適用している企業は、それほど多くありません。下表は、厚生労働省の毎年発表している「高年齢者雇用状況等報告」のうち、継続雇用制度の内訳を集計してグラフ化したものです。

 

継続雇用制度の内訳の内訳

 

これを見ると、希望者全員を継続雇用する企業が2013年の法制化とともに、42.8%から65.5%に急増しています。経過措置があるにもかかわらず、即時対応した企業が多いことがわかります。この経過から、70歳までの継続雇用についても、恐らく経過措置期間が設けられると思われるものの、法的義務化に即時対応する企業が急増するのではないかと考えられます。

 
 
4:70歳雇用義務化は、団塊ジュニアが65歳を迎える直前か

 

過去の経緯から見ると(あくまでも仮定ですが)、努力義務化(2021年)から6年で法的義務化、12~13年、つまり2034年頃には希望者全員を雇用するような法的義務化に移行する可能性が高いのではないでしょうか。この年は、いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる労働人口構成のボリュームゾーンである1971年から1974年生まれの世代が、65歳を迎える直前になります。

 

まだ先の話だ、と思わず、自社における世代別人員構成や採用計画、今後のシニア世代の雇用想定と人件費総額の予測等、できるところから準備をしておく必要がありそうです。

人材確保が困難となる中、法的義務化に対して他社よりも遅れた対応をすれば、社員側から見た会社への信頼にも少なからず影響すると考えられるため、あまり先延ばしにできる課題ではありません。

また、若年層が採用できないのであれば、経験豊富なシニア世代が、より意欲的に働ける環境を早めに整えておくことは、自社の戦力確保の観点からも重要なテーマとなりそうです。

 

 
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執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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