みなし残業代制度の活用方法について考える(1)

人事制度構築のご支援をする際、残業時間をどうやって減らしていけばよいかについて検討する機会があります。その中でも、自社の給与制度を変更して「みなし残業代制度」を検討したいというクライアントが増えてきたように感じます。書籍などで耳にされることもあるかと思いますが、「みなし残業代制度」について、2回に分けて具体的活用方法を考えていきたいと思います。第一回目はオーソドックスな活用方法についてお話します。
 
1.「みなし残業代制度」の正しい活用目的とは
 
みなし残業代とは、1ヶ月の賃金に予め残業代の一部又は全部を含める給与決定の仕組みです。例えば、全社員に「1ヶ月20時間分の残業代をみなし残業手当として支給する」といった制度を作った場合、各人の残業代計算基礎額に設定したみなし残業時間数を掛け合わせた金額が予め固定給として支払われます。実際の残業時間が20時間を超えた場合には、その分を別途支払う必要がありますが(不足する)、20時間以内に納まれば、みなし残業代とは別に残業代を支払う必要はありません。反対に、実際の残業時間が10時間だった場合も、20時間分は固定給として必ず支払わなければならない(余分に支払う)ということでもあります。
 
こうした「みなし残業代制度」の仕組みを導入することは、現在の月給にみなし残業代がそのままプラスされる場合には、法的に何ら問題はありません。留意点として、賃金規程に「みなし残業代の定義」を明確にうたっておくことが必要です。また、繰り返しになりますが、実際の残業時間がみなし残業の設定時間を超えた場合には別途支払わなければいけません。「みなし残業代を払っているから、それ以上残業があっても払わなくていい」という声を聞きますが、これは違法になるため、くれぐれも注意してください。
 
さて、「みなし残業代制度」を活用する目的は企業により様々だと思われますが、筆者は、「みなし残業代制度」の本来の活用目的は、会社全体で残業時間の「天井」を強制的に設けることで、それを超える残業は「悪」であるというイメージを会社内に作り、社員の意識改革と行動改革を図っていく、その「起点」にすることではないかと考えています。
 
「みなし残業代制度」を導入することで、言わば、各人ごとの残業時間の持分が設定されることになります。これについて会社は、管理者を中心に「残業時間の持分」を社員に意識させるとともに、超えないように仕事のマネジメントを行っていきます(管理者の残業に対する意識改革にも繋がります)。また、実残業時間が設定したみなし残業時間より少なくても、みなし残業時間分の金額は固定給として支給されますので、社員からすれば短い時間で帰ったほうが「得」という感覚にもなりやすいと言えます。
 
これに関して、「残業することに否定的になったらどうするんだ」という声がありそうです。確かにその点は否定できませんが、そこで考えが止まってしまってもいけません。少々きつい物言いにはなりますが、元々残業は会社が「業務命令」として「36協定」に従って行なうものであり、業務命令には社員は従わなければなりません。残業は無いにこしたことはありませんが、必要な残業というものは必ずあります。
 
従って、少なくとも、みなし残業時間数分については必要なときにはしっかりと取組んでもらうように指導します。特に残業時間に偏りがあるような会社であれば、業務の割り振りにも問題があるかもしれません。仕事が少なくて残業もほとんど無い人が仮にいるのであれば、ある程度仕事を分配することも考えてよいのではないでしょうか。逆に必要ないとき、効率よく仕事を終えたときには残業無しで手当分の金額が支給される仕組みであることをしっかり伝えることで、社員の方にも納得してもらえるよう対応していただきたいと思います。
 
「みなし残業代制度」の活用方法は、ともすると「無理やり残業時間を抑える、残業代を減らす」施策としてのみ使われてしまうという危険性をはらんでいます。却って残業代の発生リスクを増やすことにもなりかねません(持ち帰り残業にする、残業しても申告しないなど)。これから「みなし残業代制度」の導入を検討する、あるいは見直しを行う場合には、同制度を導入し、如何にして社員の意識・行動を変えていくか、そうした視点に立って活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
 
次回は、所定内月給の削減を伴うみなし残業代制度の活用方法(これは法律上はグレーな問題を含むが)について考えていきます。

執筆者

森中 謙介 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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