男女賃金格差は、開示のあった上場企業で約3割。その原因と今後の見通し
女性活躍
女性活躍推進法に関する制度改正により、労働者が301人以上企業の「男女賃金の差異」の情報公表が義務化されました。上場企業では、2023年3月決算の会社から、有価証券報告書上での開示が本格化しています。
開示のあった上場企業の男女賃金格差は、正社員に限定して3割弱、全労働者ベースでは3割強となっています。男性10に対して、女性の賃金は7を下回るということです。しかし、これは上場企業に限ったことではなく、日本企業全体で見ると、更に広がります。正社員に限定すれば、3割弱(令和4年 賃金構造統計調査)ですが、国税庁の令和3年民間給与実態統計調査によると、給与所得者全体では、男性の平均給与545万円に対して女性302万円と、実に約45%の賃金差となります。
さて、男女の賃金格差が発生する原因は、以下のようなことが挙げられます。
1.非正規社員比率の違い
男性の非正規雇用労働者は2割強、女性の非正規雇用労働者は5割強となっており、労働者全体で見た男女賃金格差の最も大きな原因となっています。ただし、これは正社員内の男女賃金格差が3割弱ある説明にはなりません。
2.業界・職種選択の差
正社員内の男女賃金格差については、男女間で選ぶ職種や業界に偏りがあり、男性が高収入であるとされる分野に多く進み、女性が低収入であるとされる分野に偏ることが原因として挙げられます。例えば、男性が営業職やエンジニアとして比較的高給な職種に就く一方、女性が介護職や一般事務職など比較的低給な職種に就くことが多いということです。
3.昇進・昇格、管理者比率の差
上場企業で開示が進む女性管理職比率の平均値は10%弱となっています。正社員のうち、女性社員の割合は30%弱ですので、正社員のうち管理職に昇進する割合自体も少ない。やはり、昇進・昇格において、男女差が大きいことは、賃金格差の原因となっていると言えるでしょう。また、平均年収が高い業界や企業ほど、女性管理職比率が低い傾向にある点も、賃金差に少なからず影響していると考えられます。
4.平均勤続年数と年功賃金
平均勤続年数の差も原因の1つとなっています。共働き世帯が増えたとはいえ、結婚や出産を機に退職したり、パート社員としての勤務に切り替える女性は少なくありません。日本では、まだまだ年功型賃金が残っており、勤続年数の違いも、女性管理職比率や男女賃金格差につながっているのです。
5.家族手当や住宅手当
今日でも、家族手当や住宅手当を支給している会社は少なくありません。しかも、上場企業など大企業になる程、金額も高めとなっています。もちろん、「女性には家族手当や住宅手当は支給しません」といった規定は違法です。しかし、支給対象者を「扶養家族を有する社員」や「世帯主」としている企業が多く、結果的に男性社員の賃金を引き上げることになります。また、扶養配偶者の所得水準を「103万円」「106万円」「130万円」といった、いわゆる年収の壁に設定しているケースが多く、これも家族手当が男性社員に支給されやすい要因となっています。
このように見てみると、賃金制度上で男女格差を設けているわけではないものの、いくつかの原因が複合的に作用し、男女賃金格差を生み出していることが分かります。
ただし、今後この男女賃金格差は、以下のような理由から、徐々に縮小していくものと思われます。
・非正規社員、特にパート社員比率の頭打ち傾向
・大企業を中心とした、女性管理職比率向上への取組み
・年功型賃金の縮小傾向
・家族手当、特に配偶者手当の廃止や縮小への取組み
本来であれば、
・最低賃金引上げ
も後押ししそうですが、これには「年収の壁」の解消が条件となるでしょう。
あと、問題は「男性社員の賃金水準が引き下がることで、格差是正されるのか」「女性社員の賃金水準が引き上がることで、格差是正されるのか」ですが、昨今の人手不足とベースアップ気運が続く限りは、後者になりそうです。ただし、大企業を中心とした企業収益の安定が、前提となります。
女性役員数や女性管理職比率を開示することで、比率向上を人事方針に掲げる上場企業が増えてきました。男女賃金格差についても、ギャップが大きいまま放置すれば、採用や定着に悪影響を及ぼしかねません。時間はかかるかもしれませんが、格差縮小の方向に向かっていくと思われます。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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