会社を守る就業規則見直しのポイント(1)管理監督者の深夜残業

今回から「労務管理」をテーマにブログを担当します森中です。
 
「労務管理」と言っても様々ですが、中でも皆様の関心が高いと思われる「就業規則」について、①リスク回避に重要な法的ポイントと、②正しい規程の作り方、を中心にお話してまいります。
 
初回で取り上げるのは「管理監督者の深夜残業」の問題です。
マクドナルドの「名ばかり管理職事件」以降、管理監督者の残業問題が多くの関心を集めました。そもそも「管理監督者とは何か(管理監督者性)」については弊社のコンサルタントが別に書いておりますので(岩下:「管理者」の残業代問題に対する実務的アプローチ(1)(2))、私の方では管理監督者と残業の法的問題について基本的な部分を解説したいと思います。
 
既にご存知のところと思いますが、管理監督者は労働基準法上、残業代支払いの対象外となります。具体的な条文を確認していきましょう。
 
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2.事業の種類に係らず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 
管理監督者は上記第41条第2号に該当することになります。管理監督者は経営者と一体的な立場であり、労働時間や休憩、休日についての規制を超えて活動しなければならない(=時間での管理に馴染まない)という事業経営上の必要性から適用除外が認められた、という経緯があります。
それでは管理監督者については残業代支払いの必要が一切ないのか?というと、ここに落とし穴があります。厚生労働省からこんな通達が出ていますので、見ていきましょう。
 
【昭和63.3.14 基発150号、平成11.3.31 基発168号】
本条(第41条)は第4章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日の規定を適用除外としているものであり、深夜業の関係規定(第37条の関係部分及び第6条の規定)は適用が排除されるものではない。
したがって、本条により労働時間等の適用除外を受ける者であっても、第37条に定める時間帯に労働させる場合は、深夜業の割増賃金を支払わなければならない。
ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない

 
読んでいただければわかるように、管理監督者であっても「深夜残業(労基法で定める22時~翌5時までの時間帯)」については外すことができず、残業代を支払わなければいけない、というのが法律実務上の取扱いです。その理由は様々ですが、一つは管理者であるといっても無理な長時間労働と、それに伴って健康を害することを防ぐ必要があるということかと思います。
 
「管理監督者=深夜残業が必要」という事実は、筆者の経験上、多くの企業(特に中小企業の現場では)で知られていないように感じます。経営者側も「管理者なのだから当然必要なこともある」と考えますし、当の本人も「管理者なのだから別に」と考えているようです。深夜残業が常態化していることはそもそも別の問題を惹起しますが、この意識ギャップの差が「サービス残業」の温床となり、ひいては「未払い残業代訴訟」へと繋がる危険性をはらんでいます。
 
上記問題についての解決策はシンプルです。
(A)深夜残業については残業代の対象になることを伝え、実際に稼動した分を支払う。
(B)管理監督者の深夜残業を禁止する
 
この2つが主な方法と考えます。しかし、これではあまりしっくりこない、とお考えの方もあるでしょう。ここが今回のポイントです。先ほどの通達の但し書きをご覧下さい。
「…労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない。」とあります。
 いわゆる「みなし残業」のような形で、最初から深夜残業分を含めて賃金が決まっており、そのことが就業規則等で「分かる状態」であれば、その都度の残業代支払いは必要ありません。具体的な賃金の決め方については色々な方法がとれますが、今回はシンプルに「管理職手当に含める形式」を紹介しましょう。就業規則では、例えばこういう風に規定します。
 
(役 職 手 当)
第○○条
役職手当は、役職者に支給する。役職手当の種別と額は以下の表に定める。
(2)以下の表に定める課長以上の役職者(管理監督者)については、役職手当の30%を第2条に定める深夜勤務割増手当相当分とする。

 
  役職呼称   手当月額
  本部長    100,000
  副本部長   90,000
  部長      80,000
  担当部長   75,000
  課長      60,000
  課長代理   20,000
 
上記の例では、課長以上を管理監督者とし、役職手当(管理職手当)の30%を深夜残業に充てる、という形をとりました。金額については深夜残業実態に応じて設定すればよいのですが、例えば月に7~8万円程度の深夜残業代が発生しており、全てを管理職手当で賄っている、などは違法性の疑いが強くなりますので(純粋な管理職手当が十分支給されていることも「管理監督者」であるために必要な要件であることから)、極端な対応は出来ないことに注意してください(30~50%程度が限度でしょう)。そもそも、多すぎる深夜残業については管理職といえども指導の必要があることは言うまでもありません。
 
新たに役職手当を設定する際に、深夜残業が定期的に発生する会社であれば、予め残業分を盛り込んだ手当を設定しておけば、残業代の追加負担が発生しないため、コスト増を防ぐことが可能になりますし、これまで未払いの問題があった会社については、リスク回避も可能となります。但し、これまでは深夜残業の発生都度支払われていたにも係らず、会社の都合で「実は役職手当に含まれていた」として今後支払わないこととする対応は原則認められません(既得権益を奪う=不利益変更にあたる)ので、この場合は労使合意を経た上で労働協約、就業規則変更の手続きをとることを忘れないようにしてください。
 
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執筆者

森中 謙介 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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