東芝で発生する割増退職金と再就職支援
人事制度
東芝は収益改善策の一環として、2015年末に、家電部門と本社の管理部門で、併せて約7800人の人員削減を行うと発表しました。
その具体的方法は、東芝発表のIR資料「コーポレート部門における早期退職優遇制度等の人員対策の実施について」から抜粋してみると、以下のようになっています。
原則として満40歳以上かつ勤続10年以上の者について早期退職優遇制度を適用します。
早期退職の場合の優遇措置として、通常の退職金に特別退職金を加算して支給し、
希望者に対し再就職支援を行うことを予定しています。
早期退職優遇制度の実施に伴い発生する費用は、今後の募集状況等を踏まえて精査し、
まとまり次第開示いたします。
さて、ここで人員削減策として挙げられている「特別退職金(割増退職金)」と「再就職支援」について考えてみましょう。
割増退職金は、退職時の退職金(会社都合扱いにするか、自己都合扱いにするかは会社によって異なる)に加えて、追加で支払われる加算金です。発表時点で東芝は「今後の募集状況等を踏まえて精査」するということですので、その水準については明らかにしていません。そこで、先に人員削減を実施したシャープの2015年8月のIR資料「希望退職の募集の結果及び特別損失の計上に関するお知らせ」から抜粋してみると、次のようになります。
希望退職者数 3,234人(有期雇用社員を含む)
希望退職の募集に伴い発生する費用は、約243億円であり、…。
3,234人に対して243億円ということですので、発生費用は1人当たり約750万円。発生費用の内訳は、おそらく割増退職金と再就職支援費用と推測されます。
再就職支援はアウトプレースメントともいわれ、登録された人材に対して、再就職先が決まるまで、候補企業の紹介から面接時のアドバイスなどの支援を行うサービスです。企業収益が悪い時期に需要が増加する、景気と逆相関にある業界といえます。事実、ここ2年ほどは、依頼数が減少傾向にありました。
このアウトプレースメントの費用ですが、以前は1人につき100万円以上が相場という時代がありました。しかし、近年では価格競争激化により、50万円程度というケースも増えてきたようです。この費用は、人員削減を行う側の企業が100%負担し、再就職先の企業負担は一切発生しません。
シャープのケースでは、仮に再就職支援の費用が1人当たり50万円とすると、750万円-50万円=700万円が平均の割増退職金額ということになります。
東芝の場合は、もともとシャープよりも年収水準の高い会社でしたので、おそらく1人当たりの割増退職金は800~1,000万円程度が予想されます。
この金額は、公表されている平均年収とほぼ一致しますので、会社としては1人を削減するために1年分の年収を余分に支払うことを意味します。 ただし、これは大企業の話です。中小企業においては、早期退職の際にも割増退職金は、ごく少額か、全く支給されないケースもあります。やはり、退職時にも、中小企業に比べれば、大企業は恵まれていると言えるでしょう。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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