企業に属さないフリーランスの時代は来るか
人事制度
2014年12月、株式会社クラウドワークスという会社が東証マザーズに上場を果たしました。
この会社のサービスは、「企業と個人がオンライン上で直接つながり、仕事を受発注できる日本最大級のクラウドソーシング」となっています。
たとえば、企業が新商品のWEBページを作成したいとします。これまでなら、制作会社に依頼していたものを、このサービスを利用すれば、自社の条件に合ったWEB技術者やデザイナーを直接探したり、公募したりできます。その人の実績や評判、依頼費用なども見ることができますので、やみくもにグーグルやヤフーで探すことに比べれば、格段に依頼しやすくなります。
また、フリーランスや個人事業主として働く人にとっても、これまで知人からの紹介や直接営業に頼っていた受注構造から解放され、仕事を獲得しやすくなります。
今後、同社は「企業に縛られない生き方」を志向する人たちの、象徴的な存在になるかもしれません。
しかし、一方で次のようなデータもあります。
総務省発表の就業構造基本調査による、平成19年から平成24年にかけての、働き方の人数推移です。
・正規の職員・従業員 -3.5%
・非正規の職員・従業員 +8.1%
・会社などの役員 -13.5%
・自営業主 -11.5%
・家族従業者 -28.5%
正社員が減って非正規社員が増えたことは知られていますが、「会社役員」「自営業主」「家族従業者」も大幅に減っているのです。「個人の時代」と言われて久しいものの、統計上は「働く人」が独立するのではなく、組織に残り、非正社員化していることを示しています。
では、これからはどうでしょうか。
遠い将来は分かりませんが、当面はまだ「個人の時代」は来ないと思います。
確かに、冒頭のクラウドワークス社のように、フリーランスの人材が活躍しやすいインフラが整ってきたことは間違いありません。わざわざオフィスを借りなくても、図書館やレンタルスペース、街中のカフェなど、至る所でネット環境が確保できる時代です。実際に移動の時間とコストを使って依頼主に会いに行かなくても、メールやWEB会議システムなどを利用すれば、離れた場所から仕事の打ち合わせを済ますこともできるでしょう。
しかし、まだ大多数の日本人は、「不安定だけれども自由な」フリーランスよりも、「不自由だけれども(目先)安定している」企業に雇用されることを、選択するのではないでしょうか。
たとえば、リクルートという会社は、昔から多数の個人ライターを活用することに慣れています。ただし、このような一部の会社を除いては、企業側にも不特定多数の個人を有効に活用するだけの、業務管理ノウハウや体制が整っていません。
昨今の人手不足感により、企業の採用意欲は急速に増してきました。非正規社員を正社員化しようという動きも、徐々に浸透しつつあります。企業も個人も、これまでの「雇用関係」を維持・拡大しようとしているように感じます。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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