ニトリの「マイエリア制度」からみる、今後の転勤制度の在り方について
人事制度
2023年3月以降、ニトリホールディングス(HD)は、総合職と同待遇で、転居を伴う転勤が無い「マイエリア制度」を部分導入することを発表した。入社4年目以上の社員が対象で、東京あるいは大阪の本部に通勤することができ、制度の利用を希望する社員のなかから人事担当者が選出する。制度利用による昇進への影響や利用期間の制限を無くす一方、転勤する社員には、毎月支給する「転居者手当」を従来の2〜4倍に増やし、希望の偏りを防ぐ。
制度の導入の背景には、共働き世帯の割合が、8年前と比較して2倍弱の55%にまで増え、居住地の異動を望まない社員の声が強くなっていたことが大きな要因であるようだ。
これまでも似たような制度として、いわゆる「勤務地限定社員制度」があった。これは、転勤の可能性がある「全国勤務社員」と転勤なしの「限定勤務地社員」といった形で社員を区分し、勤務地の移動を希望しない社員に対し、月給における1~2割程度の処遇差や昇格制限などを設けたものである。ただし、多くの日本企業は、転居を伴う転勤を前提とした人事施策を取っており、その意味において、勤務地限定社員制度は、あくまで転勤の可能性のある「全国勤務社員」をデフォルトスタンダードとして、転勤なしの「限定勤務地社員」は、その基準から処遇等を低く設定するという考え方になっている。
しかし、前回の筆者の記事でも触れていたが、昨今転勤に対する働く人々の考え方は確実に変わり、転勤はパートナー(配偶者)のキャリア形成や、安心・安全な子育て環境の変化を強要し、阻害するもの、といった価値観が生まれ始めている。加えて、少子高齢化による人材確保の難化・多様な働き方などを踏まえると、企業は転勤を希望する社員・希望しない社員の取り扱いについて、改めて議論を行う必要があるのではないか。
今回のニトリホールディングスの決定は、まさに転勤しない社員を前提とした制度改定となっており、一石を投じる施策であったことは間違いないだろう。
現在に至るまで、転勤者に対する考え方については、常に議論されてきた部分ではある。確かに転勤制度は、人材育成(視点やキャリアの広がり等)や、新たな視点による業務改善、組織の活性化等々の観点から、仕組みとしてとして不可欠なものであり続けることは間違いないだろう。しかし、改めてその考え方やそれに適した人事管理手法を企業が模索する段階に来ているのかもしれない。
執筆者
鈴江 遼
(人事戦略研究所 コンサルタント)
大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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