転勤を望まぬ就活生・若手社員が増加!? 人事制度における対応策とは
人事制度
変わりつつある働く人々の転勤に対する考え
昨今、働く人々の転勤に対する考えが変わりつつあるようだ。私のご支援先の企業様で、転勤が有ることを理由に、就活生や転職希望者の選考や内定辞退があとを絶たないとの話をよく耳にする。20代の転職希望者393名に対して行ったあるアンケート調査結果※によると、「転勤がある/ない企業ではどちらを希望するか」という問いに対し、「転勤のない企業」が45.5%、「どちらかと言えば転勤のない企業」が31%で、合計76.5%という結果が出ている。
転勤に対する働く人々の考え方は確実に変わり、転勤はパートナー(配偶者)のキャリア形成や、安心・安全な子育て環境の変化を強要し、阻害するもの、といった価値観が生まれ始めている。人材確保が難しくなるなかで、この働く人々の変化に何かしら適応していかなければ、採用競争力の低下や離職リスクを高め、人材不足に拍車をかけかねない。
とはいえ、組織の硬直化の防止や、マネジメント候補生のキャリア形成を考えると、全社的に転勤を実施しないわけにもいかないだろう。今回は、組織のなかに転勤を前提としないキャリアを設ける、勤務地限定社員制度について解説する。
勤務地限定社員制度とは
勤務地限定社員制度とは、勤務地限定の有無でコースを分け、昇格差や処遇差を設ける制度(図表のようなイメージ)のことで、活用次第では採用強化や定着率の向上、人件費の抑制などに有効な施策となり得る。しかし、運用が難しい制度でもある。そこで導入を検討する上で、慎重に議論すべき主要なポイントをいくつかご紹介する。
【図表】勤務地限定社員制度のイメージ(一例)
全国コース | 勤務地限定コース | |
コース概要 | 将来的な管理職候補、または同程度の位置付けとして広くキャリア形成を行う | 限定した勤務地のなかで、キャリア形成を行う |
勤務地 | 限定なし(転居を伴う異動あり) | 転居を伴う異動なし |
昇格 | 最上位等級まで | ●等級まで |
処遇 | 100% | ●% |
勤務地限定社員制度の導入を検討する上で、慎重に議論すべきポイント
・組織内のありたい人員配置を阻害しないか
勤務地限定を実施したときに人員配置の融通が利かなくなるため事業運営上支障を来さないか、昇格差や処遇差が適切で全国コースを選択する社員が一定数確保できるか、についてしっかりと吟味したうえで導入することが肝要である。
・異動ルールを守れるか、それが難しい場合にどの程度のペナルティを課すか
全国コースを選択した社員に対して、実際に転居を伴う異動を命じた際に、コース変更を申し出るなどのトラブルが発生することがある。ライフプランの変動は、突如として起こりうるものであり、コース変更の申請タイミングを年1度設けたとして、なかなか事前の予測は難しい。そうしたやむを得ない事情を理由として、異動を断る全国コース選択社員に対して、どのような対応やペナルティを用意するのか、事前に明確にしておく必要がある。
・組織硬直化を防げるか
また、人事異動は、新たな業務経験を通じた人材育成(視点やキャリアの広がり等)、新たな視点による業務改善、定期的な人の入れ替わりによる組織の活性化等々のメリットもある。勤務地を限定することでこういった機会を奪うことにもつながりかねない。実際、転勤経験者は、その時は転勤は嫌だったけれど転勤してみてよかったという声もまたよく耳にする。
したがって、上記のようなコースを用意するほうがよいのか、転居を伴う異動は期間限定で行うほうがよいのか、あるいは、勤務地限定を前提としつつ、希望者にはインセンティブを設けて促した方がよいのかなど、様々なオプションを比較検討の上で、対応することを推奨する。
勤務地限定社員制度自体は、これまでも導入したり議論されたりしてきたテーマである。しかし、新型コロナウイルス感染以降、働く人々の価値観も変わっていく環境にあって、採用競争力強化や定着率向上に向け「勤務地を限定する」ということに対し、今後どのように対応していくのか、いまいちど、考えてみてはいかがだろうか。
※出典:株式会社学情 「2022年5月版 Re就活登録会員対象 20代の仕事観・転職意識に関するアンケート
執筆者
鈴江 遼
(人事戦略研究所 コンサルタント)
大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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