日本経団連の提言する賃金制度

今年5月、日本経済団体連合会が「仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度の構築・運用に向けて」と題した提言を発表しました。昨年5月に発表した「今後の賃金制度における基本的考え方 -従業員のモチベーションを高める賃金制度の構築に向けて-」を具体化したような内容です。
 
少子高齢化、人口減少が進行する中、年齢や勤続ではなく、仕事・役割・貢献度を基軸にした賃金制度への移行を促進することが、主旨となっています。
 
私も全く同感ですが、「なんで今さら?」という印象も感じてしまいます。大企業もそこに至っていないということなのか、中小企業に向けたメッセージなのかもはっきりしません。ただ、少なくとも人事や賃金決定のあり方が日本企業発展の重要課題である、という認識を示した点は注目に値するでしょう。
 
多様な人材の活用、ワークライフバランスの実現といった一般論に留まらず、同一等級内の賃金水準に幅をもたせる範囲型テーブル、習熟度・役割遂行を反映した昇給のしくみ、60歳以降の賃金のあり方、といった具体論にまで言及しています。このあたりは、各企業の判断にまかせることだと思いますが、1つのモデルを示したと捉えればよいでしょう。
 
また、「賃金水準については、生産性の違いを前提に各社が主体的に決定する」ことを推奨している点も、見逃せません。当たり前のことではありますが、同業他社をにらみながら昇給や賞与水準を決めてきたスタイルの終焉を象徴しています。
 
全体の賃金水準自体は横ばいに近い状態が続いている日本企業ですが、その中身は確実に変化しています。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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