役員報酬のあり方を考える
人事制度
今回は、役員報酬について考えてみましょう。
労務行政研究所の2013年調査によると、常勤役員の年間報酬平均は、
1,000人以上企業 300~999人企業 300人未満企業
社長 5,643万円 4,043万円 4,112万円
専務 3,367万円 2,648万円 3,197万円
常務 2,690万円 2,075万円 1,752万円
兼務取締役 1,920万円 1,672万円 1,276万円
となっており、300~999人より300人未満の企業の方が、社長と専務の報酬が高い以外は、企業規模別・職位別に金額が並んでいます。従業員300人未満といっても、株式公開企業が中心の調査ですので、平均的な中小企業よりは高めの値となっています。
では、そもそも役員報酬とは、どのような要素によって決められるべきなのでしょうか。
上記調査のように、会社の規模は、影響度(売上や部下人数)の大きさという観点から重要でしょう。また、専務や常務といった役位は、社内的な責任や権限の大きさという観点から、分かりやすい要素です。問題は、業績をどのように反映するか。短期業績だけを反映すると目先の利益確保だけに目が向き、将来的な投資をしなくなってしまうかもしれません。
化粧品メーカーの資生堂は、投資家向けに、役員報酬に関する情報を以下のように公表しています。
・取締役と執行役員の報酬は、固定報酬と業績連動報酬から構成
・役位が上位ほど、業績連動報酬の割合を高く設計
・役員報酬に占める業績評価部分は、業績目標達成時で60%程度に設計
・毎年の連結業績(売上高、営業利益率、純利益の達成度)および、
各人の担当事業業績と個人考課による「賞与」
・3カ年計画の業績目標達成に応じた「中期インセンティブ型報酬としての金銭報酬」
・株主との利益意識共有と主眼とした「長期インセンティブとしての株式報酬型ストック
オプション」
(株価によって受け取れる金額が変動)
(株式公開予定もない)非上場企業の場合、株式ストックオプションという手段は現実的ではありません。ただし、役員の貢献度を測る観点として、「長期貢献」「中期貢献」「短期貢献」に分けて報酬反映することは、理に叶っていると言えるでしょう。
中小企業の多くは、社員に対する人事評価は行っていても、役員に対する業績や役割遂行評価を明確にしていません。また、「役員として長期間登用されること」が中長期インセンティブとして機能している面もあります。しかし、それでは会社の将来にとって必要なチャレンジを行わず、大過なく日々の業務をこなすことを重視するような、保守的な役員が生まれやすくなるかもしれません。
経営者の方々には、自社の役員評価や報酬の方針について、再度考えていただければと思います。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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