「現状分析・診断」のイロハ⑭

これまで「現状分析・診断のイロハ」と題して、人事制度策定前に実施すべき定量的な分析手法や分析より浮かび上がった課題に対する解決策をご紹介してきました。今回は、これまでの総まとめとして、人件費・賃金水準・人員分析のポイントを改めて振り返っていきます。
 
1.人件費分析:現状分析・診断のイロハ③~④にて掲載

人件費分析では、労働分配率を活用した分析手法をご紹介しました。労働分配率を活用して、人件費水準の高低や業績との連動性に着眼しながら、課題を明らかにします。なお、人件費面での課題の解決策としては、賞与制度の見直しによる「人件費の変動費化」や、基本給テーブル・昇給ルール見直しによる「人件費配分の見直し」が優先度の高い解決施策となります。
 
2.賃金分析:現状分析・診断のイロハ⑤~⑧にて掲載

賃金分析では、「内部公平性」と「外部競争力」の2つの観点から賃金水準の課題を明らかにします。「内部公平性」は、「社内の貢献度に応じた賃金配分になっているか」について、等級・役職を軸に確認します。また、「外部競争力」は、「世間水準と比較して魅力的な賃金水準になっているか」について、若年層や社内の優秀者を重点に確認します。賃金水準は、採用競争力や社員の定着に影響を及ぼします。従って、賃金水準面の課題については、賃金制度全体を見直すことで解決を図ることになります。
 
3.人員分析:現状分析・診断のイロハ⑨~⑬にて掲載

人員分析では、年齢構成の「偏り」に着眼しながら人員構成上の課題を明らかにします。その際、自社の年齢構成を「中太り型」「中凹み型」「高齢化型」のどのタイプに当てはまるかを判別し、課題抽出を行う方法をお伝えしました。年齢構成のタイプごとに解決すべき具体的な課題は異なりますが、具体策の主な方向性としては、専門職制度の導入、定年後再雇用制度の充実といった施策を中心に解決を図ることになります。
 
3つの現状分析手法のポイントは、以上になります。
 
現状分析の目的は、「漠然とした問題を見える化する」ことです。見えない事実の見える化によって、解決すべき課題がクリアになり、取るべき施策の方向性もイメージしやすくなってきます。分析という言葉を耳にされると、「めんどくさそう」「難しそう」と敬遠される方もいらっしゃるかもしれませんが、人事制度改定の効果性・実効性を高めるためにも必ず実施してください。また、現状分析の結果は定量的なデータとして得られます。毎年経過観察することによって、人事制度の運用効果や組織の状態を可視化できますので、ぜひご活用ください。
 
次回からは、私がこれまで実施した現状分析において特徴的だった事例をご紹介していきたいと思います。

執筆者

岸本 耕平 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

「理想をカタチにするコンサルティング」をモットーに、中堅・中小企業の人事評価・賃金制度構築に従事している。見えない人事課題を定量的な分析手法により炙り出す論理的・理論的な制度設計手法に定評がある。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー