被評価者研修のススメ

人事評価を適正に運用するためには、評価者のスキルアップが不可欠です。ただ、実際の運用では、

 ✓上司評価が本人評価にどうしても引っ張られてしまう

 ✓部下が立てる目標に問題があり、指導に手間がかかりすぎる

 ✓フィードバック面談に臨む部下が反抗的で大変である

  …etc.

といった事象が発生し、評価者を困らせてしまいます。評価スキルが高い評価者でも、こういった問題に毎回対処するのは多大な負担です。

上記事象の発生要因は、被評価者の人事評価に対するリテラシーが低い点が挙げられます。もちろん、評価者が十分に指導できていない点もその一つですので、「評価者の仕事として、頑張って指導してください」と評価者に改善を一任するのも1つの考え方です。しかし、評価者に負担を強いる点や、評価者の指導力に個人差がある点を考慮すると、適正な人事評価運用に向けて、会社として被評価者の人事評価リテラシーを高めるアプローチも必要といえます。

 

〇被評価者研修とは?

 被評価者研修とは、評価を受ける部下の人事評価リテラシーを高めることを企図した研修です。リテラシーが高まることで、

✓冒頭に例示した問題事象の発生を防ぎ、評価者の人事評価実務に対する負担を軽減する

✓負担が軽減されることで、評価者に本来注力してもらいたい業務(例:日ごろからの部下とのコミュニケーション、1on1の確実な実施、目標に対するPDCA管理 等)に集中できる

といった効用を期待しています。

では、人事評価リテラシーを高めるにはどのような点に留意すべきか、そのポイントを整理すると以下の通りです。

 

①人事評価を受ける意味を認識してもらう

➢人事評価を受けることが自分自身にとってどのようなメリットがあるかを認識してもらうことが重要です。

➢しかし、「こうあるべき」といった内容になりがちですので、参加者への伝え方には工夫が必要です。

  例えば、

  ・「振り返りをきっかけに成長できたエピソード」などを共有してもらう

  ・振り返りの重要性を認識できた上で、本人評価もその一環であると伝える

といった流れで、自分自身にとって人事評価が有用なものであると実感できるような伝え方をしましょう。

 

②人事評価の基礎スキルを身に着ける

 ➢具体的には、

・本人評価における評価点の使い分け方(例:基準通りであれば、何点を使うか)

・目標の書き方(例:タスクを目標にしない、共有する・防止するなど抽象ワードを使わない など)

といった点は優先度を上げて身に着けてほしいスキルですので、研修を通してレクチャーしていきましょう。
➢また、例えば「自分が上司の立場だとすると、満点ばかりの本人評価をつける部下をどう思うか?」など評価者の目線で考える機会を作ることも有効です。部下の視座を高めるきっかけとなり、人材育成面でも気づきを与える機会となるでしょう。

 

〇実施に向けた障壁

ここまで被評価者研修の有効性をお話してきましたが、評価者研修と比較すると実施している企業は少ないのが実情です。その理由として、研修受講対象者が多すぎる点が挙げられます。研修実施に向けた調整に時間を要するだけでなく、人手不足を抱える企業にとって、現場の人員を大量に研修に送り込むことは痛手です。

したがって、現場に負担が掛からない方法を模索することがポイントです。具体的には以下のような点です。

✓内容を詰め込みすぎず、なるべく短時間(最大でも2時間程度)で終えるように、内容を厳選する

✓一度で実施しようとせず、対象者を絞って毎年定期的に実施する(例えば、新入社員研修や〇年目研修などの内容に盛り込むなど工夫する)

✓録画教材など、空いている時間に手軽に受講できるようなツールを準備する

  …etc.

 

 今回は、被評価者研修の有効性をお話しました。適正な人事評価運用には、被評価者の人事評価リテラシーアップも重要です。被評価者研修の実施にはハードルがありますが、現場に負担を掛けないことに留意して、自社でできる範囲からコツコツと取り組みましょう。

執筆者

岸本 耕平 
(人事戦略研究所 マネジャー)

「理想をカタチにするコンサルティング」をモットーに、中堅・中小企業の人事評価・賃金制度構築に従事している。見えない人事課題を定量的な分析手法により炙り出す論理的・理論的な制度設計手法に定評がある。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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