人員分析を通じて組織の将来を考える③

前回は人事計画を立てるための、人員分析の3つのステップについてご紹介しました。今回はその中でも、あるべき人員を考えるうえでの観点について、以下の2点から述べていきます。

 

 ① 現場のニーズよりも人件費の理想を優先する

 ② 管理職の人員は実態を優先する

 

まず①について、将来のあるべき人員の検討の流れは大きく分けて、経営サイドの視点で行うトップダウンでの方法と、現場サイドからの要求に基づき行うボトムアップの2つに大別できます。特に人事担当者が業務内容に通じていない場合などで、現場の声を優先してしまうことがあります。しかしそうすることで人員と人件費が想定以上に膨れ上がって経営計画を見直さざるを得なくなり、計画立案がうまく進まなくなることにもなりかねません。
 
人事計画を策定する目的は経営計画の達成であることに立ち返り、まずは計画利益に基づく人件費という制約をまずは前提とすることが重要です。その制約のなかで、現場の要望との調整を図っていくことで、経営計画に沿ったあるべき人員の策定が実現できるでしょう。その際、人事や経営の側から現場に対するリーダーシップをスムーズに発揮できるよう、普段から業務の理解や責任者と良好な関係を築いておくとよいでしょう。

 

次に②について、管理職のあるべき人員の検討は、スパン・オブ・コントロールすなわち1人の管理職がどれだけの部下を管理すべきかに付随する様々な要因が影響するため、困難であることが多いです。仮に部下を少なくするほど管理職の人数が多くなり、人件費の高騰や承認ルートの複雑化などを招いてしまいます。一方で部下を多くするほどきめ細かい管理が行き届かなくなり、また高度な管理能力が必要となります。人件費の多寡、求められる業務管理の緻密さ、そして当事者のマネジメント能力といった複数の要因が絡んでいることにくわえて、多くの場合に管理職の交代は容易でないことから、理想から始めるというのはあまり現実的ではありません。
 
そこで、ある程度は実態に基づき管理職の人員を決定していくこととなります。部下があまりにも多すぎることで問題が生じていないか、あるいは部下が少ない部署は権限委譲を進める等で増やすことはできないか。あるべき人員について、経営計画の達成という最終目標ではなく、いま生じているマネジメント上の課題を踏まえたうえで検討することが、理想に近づく近道といえます。

 

まとめると、利益計画に基づく理想の人件費と、組織のマネジメント上の課題に関する実態からスタートすることで、あるべき人員を効率的に考えることができる、ということです。人事計画の策定を予定されている企業様は、ぜひ参考にされてはいかがでしょうか。

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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