評価しきれない社員の頑張りにどう報いるのか?

先日、ご支援先の中小企業の社長様より、以下のご質問をいただきました。「評価結果にあらわれなくとも、頑張っている社員は報いてあげたくなってしまう。そのためつい、賞与・昇給・昇格でタイミングの一番近いものに反映してしまう。とはいえ、それがルールを無視していると、幹部から苦言を呈されることがある。どうしたらいいと思うか」というものでした。
 
制度で評価しきれない内容については、例えば評価表に加点欄を設けるなど制度面で工夫できる方法は色々とあります。とはいえ中小企業の経営者のなかにはそれよりも、賞与支給額を積み増す等ダイレクトに処遇したいと思われる方も多いのではないでしょうか。しかしながら、評価対象となる事由の発生が、賞与の時期であれば賞与に、昇給の時期であれば昇給に、昇格の時期であれば昇格にと、反映の対象をタイミングで安易に決定してしまうことは、計画的な人件費配分への障害などの問題につながるかもしれません。社員の公平感や納得感のためにも、処遇の反映先に一定のルールを設けることは重要です。

 

そこで私がアドバイスしたのは、評価対象となる内容に基づいて判断すべき、具体的には賞与が基本、再現性が確認できればそれにくわえて昇給、いずれの場合も昇格は慎重に、ということです。まず賞与については、昇給や昇格と異なり一度の払いきりという特性から、一定の金額をプラスで支給しても、人件費などへの影響は一次的なものにとどまります。そのため通常の評価以外での処遇にはとても使いやすいといえるでしょう。

次に昇給について、月々の給与(残業代含む)や場合によっては退職金に跳ね返ることで、人件費への中長期的な影響が見込まれます。であればその処遇対象も、再現性があり中長期的に組織に貢献が見込めるものに限るとよいでしょう。
 
一方で昇格は慎重な判断が必要です。昇格の際、ときには手当等により昇給よりも大きな人件費アップが伴います。あわせて社員にステップアップを実感させる貴重な機会であることを考え合わせると、賞与や昇給よりも慎重な判断が必要だといえます。
 
  

例えば冒頭の社長が悩まれていたものとしては、社内の特殊なプロジェクトで成果を出した一定の社員に対する処遇でした。これを上記に当てはめると、
 

 ・プロジェクトが恒常的には発生しない等、再現性がないのであれば賞与のみで処遇

 ・プロジェクトの推進を通じて、コミュニケーションなど他の業務にも応用することで再現性を確認でき、中長期的に組織に貢献できるようであれば賞与+昇給

 ・プロジェクトの推進を通じて、マネジメントなど上位等級に求めるものが十分に確認できるようであれば賞与+昇格(ただし慎重に判断)

 
となります。
 
もちろん個々の会社の方針や業態で異なるものは多々あるかと思いますが、処遇の際のひとつの参考としていただければ幸いです。

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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