コア人材の獲得に向けて給与水準を職種別に設定する

夏から秋にかけては最低賃金の引上げがニュース等で取り上げられることもあり、この時期には給与水準の引き上げをメインとした制度改定のご相談を多くいただきます。特に昨今では給与水準について社内一律とするのではなく、職種によって差をつけたいという声をよく耳にします。

 

例えばあるサービス業の会社では、デジタルコンテンツの拡大による競争力強化といった経営課題のもと、高度IT人材の採用と定着を企図していました。そこで、その職種のみを対象とした新たな給与テーブルを、他の職種を上回る水準で設計しました。あるいは別のメーカーでは、ますます高度化する顧客の要望への対応に向けて、生産系の職種から設計や営業の職種へと人員のシフトを企図していました。そこで採用や定着に加えて社内の異動を促すために、設計や営業には職種手当といった形で給与を上乗せするようにしました。

 

これらのケースは実現の方法が若干異なるとはいえ、等級や評価が同じであっても職種や専門性によって給与水準を変える、特に自社の戦略上コアとなる職種は高くする仕組みを導入したという点で、共通しています。

 

さて実際に労働市場に目を向けると、給与水準は職種によって大きく異なるという事実があります。下のグラフ1は、厚生労働省による令和3年賃金構造基本統計調査の職種別の結果から、機械器具メーカーの設計担当者(機械技術者に相当)と製造ライン担当者(電気機械器具組立従事者に相当)を想定して抜粋したものです。またグラフ2はそれらの職種における中途での採用時の給与を想定し、同調査の職種、年齢、経験年数別の結果から、年齢が30代前半かつ経験年数が0年のものを掲載しています。いずれのグラフにおいても、「所定内給与額」の12か月分と「年間賞与その他特別給与額」の合計を、年収として表示しています。これらの2つの職種では、平均して(グラフ1)200万近く、中途の採用給でも(グラフ2)100万以上の差がついていることがわかります。
 

 
 

 

ちなみに、この労働市場における給与水準の決定要因は、恐らく需給のバランスの果たす役割が大きいと考えられます。また様々な会社からお話しを伺っていると、経営課題の解決に資すると考えられているコア人材は需要が高い(事業やプロジェクト等のマネジメント人材)か、あるいは需要が高くかつ供給が少ない(ITや機械工学等の高度専門人材)ことがほとんどです。よってコア人材の採用や確保には多くの人件費コストを必要とし、またその傾向は今後ますます顕著になってくると推測されます。

 

これらの議論を踏まえると、限りある人件費は全社一律の給与水準で等しく配分するのではなく、むしろ自社の戦略上より重要な職種に重点的に配分する、選択と集中が今後重要になってくるのではないでしょうか。具体的な方法としては冒頭で述べた事例のように重要度の高い職種に対して、手当の形で給与を上乗せしたり、そもそも初めから高い給与水準を設定したりといったものが考えられるでしょう。あるいは逆に重要度の低い職種について、給与の上限をより厳しく、あるいは昇給しにくく設定するというやり方もあります。さらに「ジョブ型雇用」と呼ばれるような、職務内容ごとに給与水準を設定する仕組みの導入を検討されてみてもよいでしょう。

 

また個々の職種の給与水準だけでなく、職種間の異動の仕組みも考える必要があります。重要度や給与水準の比較的低い職種で採用あるいは配属された社員であっても、高い側へと転換するための基準やルールを整備する。それによって重要度の高い職種の給与水準がインセンティブとなり、コア人材の社内調達が促されるでしょう。様々な考え方があるとは思いますが、社員の稼げる力を高めることが経営の責任のひとつとした場合、会社はそのような社内調達に積極的に取り組むべきともいえるかもしれません。

 

給与水準が全社一律の場合は職種によって差をつけることを、あるいはすでに差がついている場合はその差が外部水準や事業戦略と照らして適切なものになっているかどうか、今一度検討されてみてはいかがでしょうか。

 

 

<中堅・中小企業における”ジョブ型”人事制度の可能性①

https://jinji.jp/hrblog/116/

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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