役職の変更に付随する問題への対処
人事制度
人材育成などを目的として、人事制度の改定に伴い役職を振りなおすことがあります。その際、移行可能性と運用可能性の2点から、慎重に検討することが必要です。以下ではよくありがちな2つのケースを紹介します。
1. 降職と受け止められることから移行が困難となったケース
A社では一時期安易に昇進をさせすぎたことで、特に「係長」層で、後輩への育成・指導といった本来の役割が果たせていないことが問題となっていました。そこで「係長」は育成・指導を適切に実施できている社員のみとしました。それ以外は新設する「主任」を付与することで「係長」から外し、本来の役割に未達であることを自覚させて育成・指導の促進・強化を図ろうとしました。
ところが社長の粘り強い説明・説得にも関わらず、多くの管理職がこれに反発しました。本人のモチベーションが低下する、あるいは名刺の肩書が変更となり顧客からの信頼が低下する、という懸念からです。そこでなるべく降職のイメージを払拭できるよう、後輩の育成・指導を担う本来の係長はチーフ、その役割を果たせない社員をリーダーとして導入に漕ぎつけました。
降職をふだんから実施しているような会社は別ですが、そうでない場合は降職と解釈されてしまい、移行が難しくなります。その場合は移行前の役職と対応して考えることのないよう、上記のように横文字としたり、主査や主事などを使用したりといったこれまでとは異なる名称になるように工夫が必要です。
2. 社内規程やルール等の面から運用が困難となったケース
B社では課長層の育成に向けて、「課長代理」の役職を新設しました。課を統括するという課長と同じ役割を果たしていながらも、マネジメントの能力がまだ期待水準に届いていないことを自覚させることで、成長を促そうとしたのです。
ところが、「課長」と「課長代理」の役職の違いを社内規程やルールに反映させようとした結果、かえって社内の混乱を招いてしまいました。そこで両者の役職を「課長」で統一する一方、等級を分割してそれぞれに能力基準を定義することでキャリアステップとしました。
職能制度を入れている場合、役割が同じなら役職は統一すべきですし、求める能力の違いは職能等級で表現するのが基本です。またその際、役職よりも等級を意識させて成長を促すために、例えば等級基準に即した目標設定や指導を強化することが有効です。
以上2つのケースを取り上げましたが、制度改定に伴い、役職を変更する際には、移行可能性と運用可能性を踏まえて設定することに留意してください。
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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