年間休日は120日がスタンダード⁉ 年間休日を見直す際の留意点とは
労務関連
週休3日制を導入する大手企業が連日報道されるなか、中小企業においても年間休日数を増やす動きが活発化しています。2023年度の労務行政研究所の調査※1では、年間休日を120~124日と設定している企業が、おおよそ50%以上を占めている、という調査結果も出ています。今や、賃金水準のみならず、休日日数も労働条件の重要な要素のひとつとなっています。
本稿では、年間休日を増やすメリットや休日の見直し方法、注意点についてお伝えします。
年間休日を増やすメリット
年間休日を増やすことによるメリットを改めて整理すると、大きく2点挙げられます。
A) 従業員満足度の向上
昨今、ワークライフバランスが謳われ、プライベートを有意義に過ごすための時間が重要視されつつあります。そのためには、充実した休日日数が欠かせません。現に、転職活動経験のある25歳〜39歳のビジネスパーソンを対象とした従業員満足度調査※2では、休日日数が多い業種ほど満足度が高く、休日数が少ないほど低いという相関関係が確認されています。年間休日を増やすことで、心身のリフレッシュによる社員のモチベーション向上も期待できます。
※2出典:doda 従業員満足度ランキング (https://doda.jp/guide/ranking/053.html)
B) 採用競争力の強化
年間休日日数は、今や企業選びの基準のひとつになっています。求人を出しても応募がない・少ない場合には、給与だけでなく年間休日日数を増やすことにより、改善される場合があります。
法的に最低限問題のない年間休日日数を設定している企業も未だ見受けられます。具体的には、1日の所定労働時間を7時間30分とし、年間の所定労働日数を278日・年間休日数を87日で年間カレンダーを作成しているようなケースです。実際にこうした企業では、採用に苦難しているお話をよく耳にしますので、年間休日が3桁未満である場合は、特に優先的に見直しを行うべきかと思われます。
以上の通り、社内外の両面でその効果を期待できますが、休日の見直しには具体的にどのような取り組みが必要でしょうか。次項でご説明いたします。
年間休日の見直し方法
年間休日の具体的な見直し方法についてご紹介いたします。まずは冒頭でご紹介したような外部の調査データ等を用いて、全国の同業種・同規模の企業の年間休日平均と、自社の実態を比較しましょう。簡単にアクセスできる調査機関として、厚生労働省が発表している就労条件総合調査(就労条件総合調査|厚生労働省 (mhlw.go.jp))があります。
比較結果を参考にした上で、自社で目指すべき年間休日日数を設定しましょう。その際、いきなり目標の日数へと増やすのではなく、数年にわたって段階的に増やしていき、社員への業務負荷が大きくなっていないか、残業時間が増えていないかなど逐一確認されることをお勧めします。
また、社内のリソースが制約されているなどの理由で、無条件に年間休日を増やせない場合には、以下のような方法もございます。ぜひ参考にしていただければと思います。
①繁忙期を踏まえ、拠点ごとに休日カレンダーを見直す
法律上、事業所や工場ごとに、年間休日日数を設定することも可能となっています。全社同一で休日を設定しているものの、拠点によって繁忙期・閑散期の差が激しい場合は、実態に即した形で事業所や工場ごとに休日日数を設定することを検討してみると良いでしょう。
②所定労働時間を見直す
また、所定労働時間が8時間未満の企業であれば、所定労働時間を見直して、休日日数を増やす方法もあります。例えば、1日の所定労働時間が7時間45分・年間の所定働時間2000時間の企業があるとします。この場合、2000÷7.75(7時間45分)=258日が年間所定労働日数となりますが、1日の所定労働時間を8時間(法定労働時間の限度まで)に増やすことで、2000÷8=250日となり、258-250で約8日年間休日を増やすことができます。これであれば、年間の所定労働時間は変わらないため、人員増や業務量の調整を行わなくとも、問題なく休日を増やせる可能性があります。
ただし、②のケースにおいては、これまで就労義務を負わなかった時間帯への労働時間の変更であり、社員にとって不利益変更に該当するため、改定の際には労使双方が話し合いながら、十分な理解と協力が必要であることをご留意ください。
年間休日を見直す際の注意点
年間休日を増やす際には、休日と割増賃金基礎の関係性について留意しておきましょう。例えば、以下のように1日の所定労働時間は変更せず、年間休日を10日増やしたケースでは、割増賃金の基礎単価がアップします。
そのため、年間休日を増やすと同時に残業時間を削減しないと、コストアップに繋がってしまいます。特に残業が多い企業につきましては、注意が必要です。
年間休日日数の見直しのみならず、働き方改革を進めるうえでは、生産性向上を同時に考える必要があります。IT化やデジタル化を含めたDXの推進・外注利用など、さまざまな方法を用いて社員の生産性向上を推進し、より働きやすい会社づくりを進めてみてはいかがでしょうか。
執筆者
鈴江 遼
(人事戦略研究所 コンサルタント)
大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
バックナンバー
- 自己評価の狙いと運用のポイントとは
- 評語は何段階で設定すべきか?
- 評価結果に伴う減給はどこまで可能なのか?
- 政府が発表した退職所得課税見直しの背景とは?
- 精勤手当・皆勤手当の支給は時代遅れなのか?
- ニトリの「マイエリア制度」からみる、今後の転勤制度の在り方について
- 転勤を望まぬ就活生・若手社員が増加!? 人事制度における対応策とは
- テレワーカーの評価不安を解消する2つのポイント
- 人事評価のフィードバック面談3つのポイント
- シニア社員のモチベーションを高めるためには?
- 海外赴任帰国者の離職を防ぐには
- 在宅勤務で生じる不公平感を解消するには?
- 新入社員におけるテレワークの受け止め方とは
- テレワーク下でのコミュニケーションを円滑にする方法