政府が発表した退職所得課税見直しの背景とは?

2023年6月に、政府が発表した「骨太の方針」の中で、退職所得課税の見直しが明記されました。同年10月時点では、政府から具体的な見直し内容は発表されておりませんが、一部マスコミでは、退職所得課税の軽減措置廃止等が報道されております。本稿では、退職所得課税の見直しの背景について迫ります。
 
1. そもそも退職所得とは
退職所得とは、退職時に受け取る所得をいい、具体的には退職金や退職手当のほか、一時恩給などの退職に起因して支給される一時金、退職した労働者が弁済を受ける未払い賃金などの所得が該当します。
また、退職所得は給与所得などと同様に、漏れなく課税対象です。しかし、課税上ほかの所得税より優遇されている特徴があります。その理由として、退職所得が年の勤労に対する報償的給与という意味合いが強いことや、実質的に退職後の生活保障にあたることが挙げられます。そのため、税負担が他と比較し軽減されています。
具体的な軽減措置として、退職所得控除、1/2課税、分離課税が挙げられます。その中の退職所得控除が、今回見直しの対象になっていると言われております。なぜでしょうか。
 
2. 退職所得控除の特徴と退職所得課税見直しの背景
退職所得控除の計算方法として、具体的に下記の表の通りに行われます。
 
①勤続年数が20年以下の場合

退職所得控除額=40万円×勤続年数(※合計が80万円に満たない場合は80万円)

 

②勤続年数が20年超の場合

退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 
この20年と設定された年数こそが、見直しの理由として大きいようです。現制度では、日本企業のスタンダードな考え方であった“長期雇用”に基づき、上記の計算式のように、同じ企業に長く勤めれば勤めるほど、控除額が優遇される仕組みを政府は取ってきました。
しかし昨今、 この“長期雇用“的な考え方こそが、成長分野への円滑な労働移動の妨げ、ひいては日本経済へ悪影響を及ぼしている、と懸念されています。加えて、キャリアアップや待遇改善などを目的に、転職する労働者が年々増えてきている点などを踏まえ、今回の見直しに至ったとされています。
 
現時点で生活者への影響まで言及することは難しいですが、課税方法の変更により、長期雇用の従業員の退職所得が減る可能性があると思われます。企業の人事担当者は、今後も見直しの行方にアンテナを張っておく必要があるかと思います。

執筆者

鈴江 遼 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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