部下へのキャリア形成支援にヒューマンシックスニーズを活用する
教育・能力開発
近年、リスキリングやワークライフバランスというワードが流行すると同時に、「キャリア形成支援」に対する様々な政策や企業の取り組みも見られるようになりました。
キャリア形成支援がうたわれるようになった背景には、技術進歩やグローバル化による労働市場の変化、働き方改革が推進される中での社員の働き方の多様化などにより、キャリア形成支援のニーズが増加してきたことなどが考えられます。
そのような中、管理職には部下のキャリア形成支援に向けて、本人の志向性や適性を個別に把握し、適切に業務割当や配置転換をすることが求められています。しかしながら「成長を期待して○○の仕事を任せたが、結果うまくいかずモチベーションダウンや離職に繋がった」「過去の経験を考慮して配置を行ったが、思うような成果が上がらなかった」等のように、お悩みの方も少なくないのではないでしょうか。
そこで本ブログでは、志向性や適性の把握を通じて部下のキャリア形成支援に効果的だと思われる理論を紹介します。それがヒューマンシックスニーズというものです。
ヒューマンシックスニーズとは、自己啓発やコーチングの分野で活躍している、アンソニー(トニー)・ロビンズが提唱している理論です。具体的には、行動の動機となる欲求がそもそも人間に備わっており、その欲求は必ず6つに分類される、というものです。加えて、各人それぞれ異なる人生背景や経験を有している為、ニーズの優先順位や重要度合いは異なるとされています。この理論を活用し、部下がどのニーズを重視しているかに基づき適性を把握することで、キャリア形成支援に活用できます。ちなみに性格を分類する方法のうち、心理学の世界で最も有名なビッグファイブとは異なり、ヒューマンシックスニーズは人の心理的なニーズ(=欲求)に焦点を当てた理論であり、行動を促すことに密接に関連していることから、キャリア形成支援に活用しやすいという特長があります。
このヒューマンシックスニーズをひとつずつ紹介すると、以下の通りとなります。
1.Certainty(確実性): 不安を減らし、安定感や予測可能性を持ちたいというニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、できるだけ先の見通しを明確にしたり、やるべきことを擦り合せたりして安心して業務に取り組めるように配慮するといったことが考えられます。
2.Uncertainty/Variety(変化・多様性): 日常の反復作業を嫌い、新鮮さや刺激を求めるニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、いまの業務をよりよくしていくための創意工夫や改善に取り組んでもらったり、他には新しい業務機会を付与したりするといったことが考えられます。
3.Significance(重要性): 自分が認められ、大切にされていると感じたいニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、良い点や強みをことあるごとに伝えたり、業務をやってくれたことに対して「ありがとう」という言葉がけをしたりして、承認することを意識するとよいでしょう。
4.Connection/Love(つながり・愛情): 他者との関係やコミュニケーションを通じて愛情や所属を求めるニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、顧客との連絡窓口を任せるなど他者と関わりの多い業務機会を与えたり、定期的に職場でのコミュニケーション機会を設けたりするといったことが考えられます。1on1等上司と部下とのコミュニケーション頻度をより多く持てるようにすることも一案です。
5.Growth(成長): 自己向上やスキルの向上を追求したいニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、いまの業務を通じてどのような成長を期待しているのか、実際に業務を経験したなかでどのような成長ができたのかについて、部下自身に考えてもらったり、伝えたりする機会を設けることが考えられます。今後担う業務についても、何がどう成長するのかをイメージしたうえで取り掛かるようにさせることが効果的です。
6.Contribution(貢献): 他者への奉仕や貢献を通じて満足感を得るニーズ。このニーズが強い部下には、例えば、いまの業務が、誰にどのように役に立っているのか、行っている業務の意義について、考えてもらったり、伝えたりする機会を設けることが考えられます。あるいは、お客様や関係者が喜んでいたり、頂いた感謝の言葉をフィードバックすることも効果的です。
なお、部下のヒューマンシックスニーズを把握するには、本人が職業選択の場面で何を大切にしてきたか、やりがいを感じたり、力を発揮してきたのはどのような仕事であったか、等を聞いてみるとよいでしょう。ただし留意すべき点として、年齢を重ねるごとに家庭環境・仕事環境なども変化するためヒューマンシックスニーズも変化をしていきます。定期的に確認する機会を設けることをお薦めします。
手間もかからず気軽に始められるものでもありますので、育成にお悩みの方は、ぜひ参考にされてはいかがでしょうか。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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