目標管理制度における、“正しい目標”とは?

目標管理制度(MBO)は、個人の目標達成を通じ、組織目標の実現を図る制度として、人事評価の一環として多くの企業で導入されています。しかし、目標設定の段階で、制度が形骸化してしまうケースも少なくありません。等級レベルに見合っていない内容、抽象的な表現、達成度が評価しにくい指標…それらが目標として設定されてしまうと、評価にブレが生じてしまいます。

では、“正しい目標”とはいったい何でしょうか?本稿では、人事評価における、目標と認められる要件目標の種類という二つの観点から解説します。

 

①目標と認められる4つの要件
 
1.組織目標と整合した個人目標であること

目標管理制度における個人目標は、組織の上位方針と整合していなければなりません。目標設定は被評価者(部下)本人の希望や課題意識から出発することが多いものの、それが組織としての方向性とズレていては、目標管理制度の本来の意義が損なわれてしまいます。社員は、組織目標を達成するための役割を分担している立場にあり、したがって個人目標もまた、組織の方針に沿った形で設定されるべきです。部門目標や経営戦略を踏まえ、個人がどう貢献するのかを言語化することが、目標設定の出発点になります。

 

2.担当業務の主要部分をカバーし、役割レベルに即していること

目標は、被評価者の担当業務の中でも「主要な領域」から設定されるべきです。また、個々の役割レベルや職位に応じて、期待される成果や水準を反映する必要があります。目標が役割レベルと直結していれば、評価者(上司)が評価しやすくなるだけでなく、被評価者自身も自らの業務の意義や期待値を明確に理解することができます。

 

3.ストレッチされた現実的な目標であること

目標は、達成できて当然という水準では、被評価者本人の成長に繋がりません。同時に、達成が不可能なほど高い目標も、モチベーションの低下や制度不信を招きます。重要なのは、「現有能力より少し上」を目指す、適度にストレッチされた目標を設定することです。このとき、自らの権限範囲内で取り組めるものであること、組織内のリソースや協力体制を前提にした現実的な目標であることも確認する必要があります。適度にチャレンジングで、かつ現場で実現可能なレベルに収めるというバランス感覚が求められます。

 

4.評価者との合意形成を経て設定された目標であること

目標は被評価者が一方的に設定するものではなく、評価者との合意のもとに決定される必要があります。評価者は、部門の全体最適の視点から「何をどの程度求めるか」を把握しつつ、その視点と被評価者の考えをすり合わせることで、双方が納得する目標を形成することが求められます。この過程を怠ると、期末の評価時に「そこまで求められていたとは思わなかった」などといった、評価者・被評価者間の齟齬が生まれてしまいます。したがって、目標設定の段階で対話を重ねることが、納得度と制度の運用力を高める鍵となります。

 

②目標の種類

目標は、数値成果に直結するものが全てではありません。日々の業務の中から改善視点を取り入れるもの、新しい価値を生み出すものなど、多様なアプローチがあります。ここでは、代表的な2種類の目標を紹介します。

 
A. 業務改善目標(改善型目標)

日常業務の中で「非効率」「ミスの多発」「属人化」などの課題を感じたとき、それを改善につなげる目標が業務改善目標です。以下のような問題意識から改善点を抽出し、具体的な目標へと落とし込むことが推奨されます。
 
✓ 時間がかかりすぎていないか?
✓ 決まって遅れる仕事はないか?
✓ ミスや重複が頻発していないか?
✓ 作業が属人化し、標準化できていないものがないか?
 
これらの課題に対し、「処理時間を5時間から4時間半に短縮させる」「誤出荷を防ぐため、出荷前チェックを抜け漏れなく行う」「A~C工程における、業務マニュアルを完成させる」などの目標を設定することで、実効性ある改善が可能になります。

 

B. 創造的目標(チャレンジ型目標)

もう一つは、業務改善に加えて、新しい取り組みや独自の価値創出に挑戦する目標です。これは上位目標と連動しつつ、自らの工夫によって新たな成果を生むことを目的とします。具体例には以下のようなものがあります。
 

✓ 新規サービス・商品・プロセスの提案…「四半期内に、競合他社の分析レポートを作成し、自社で未導入のサービス要素を取り入れた新規提案書を1件以上作成する」

✓ 新しい顧客層・チャネルの開拓…「半年間で、未開拓の業種企業10社にアプローチを行い、うち3社との初回打ち合わせを設定する。」

✓ 職場環境や業務文化の改善提案…「今期中に、部内で働き方に関するアンケートを実施し、結果を分析のうえ改善案を3点以上提案する。うち1つの実行に向けたアクションを開始する」

✓ 他部署との連携プロジェクトの立案…「年内に、3部署以上とのヒアリングを行い、部門間で共通する課題を抽出。その解決に向けたパイロットプロジェクトを1件企画し、関係部門に説明・合意を得る」

 

いかがでしょうか。上記①②を意識して目標設定を行うだけでも、目標の精度を高めやすくなります。正しく設定された目標は、組織と個人を結びつけ、日々の行動に意義と指針を与えるものであると同時に、被評価者自身の成長を促す格好の手段となります。目標管理制度は、「どのように評価するか」よりも「どのように目標を設定するか」で運用の質が決まるといっても過言ではありません。本稿が少しでもお役に立てれば幸いです。

 

執筆者

鈴江 遼 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

人的資本や行動経済学等の理論をベースに、実践的な人事制度設計を展開。
社員ヒトと組織のしくみづくりを通じ、企業と社員の成長を実現するべく、一社一社と丁寧かつ真摯に向き合いサポートするコンサルティングスタイルに定評がある。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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