自己評価の狙いと運用のポイントとは

今回は、人事評価における自己評価の狙いと運用のポイントをお話します。
 
1.自己評価の狙い
人が成長するためには、
 ①現状とあるべき姿のギャップを把握する
 ②ギャップを埋めるための成長課題を設定する
 ③課題解決のためのアクションを決め、実践する
といったステップが重要です。
自己評価を行うことにより、評価期間中における自身のパフォーマンスを振り返る機会を意図的に作り出すことができます。その結果、上記ステップ①をより客観的な内容をもって行いやすくなります。したがって、自己評価の狙いは、人材育成の効果性を高めることといえるでしょう。
 
2.自己評価がうまく機能しない事例 
上記目的から、自己評価の導入する企業は多いですが、実際の運用時においては上手く機能していないケースも少なくありません。よくある具体的な事例とその発生理由を整理すると、以下の通りです。
 

A) 極端に高いor低い自己評価点をつける部下が発生する
自身の仕事ぶりを客観視できない、或いは評価制度への理解度が低いが故に、実態に即した自己評価ができず、過大(あるいは過小)評価してしまう
 
B) A)の結果、上司評価が上振れ・下振れしてしまう
上司の評価スキルが低いと、明確な評価根拠を持つことができず、部下の自己評価点に捉われやすくなる。それ故に、自己評価が実態と乖離したものである場合、上司評価もその点数に影響を受けてしまう
 
C) 上司が上手くフィードバックできずに、部下が不満をためる
上司のコミュニケーション力が不足している場合、評価のフィードバック時に、上司と部下の間で生じた評価(認識)の差について、部下の納得がいく説明を行うことができないため、対立が生じてしまう

 
上記のような不具合が発生すると、部下は正しい現状認識や成長課題の設定ができず、自己評価の狙いであった育成効果の向上が期待できません。また、上司・部下間の信頼関係が損なわれ、人事制度全体の健全な運用に支障をきたす可能性まであります。このようなトラブルを回避するための具体的な運用のポイントをご紹介します。
 
3.運用のポイント
運用のポイントは3点です。
 

イ) 評価者研修の実施
定石の施策として、評価者研修の実施が挙げられます。研修を通じ、上司に部下が納得できるフィードバック力を身に付けさせましょう。特に部下への“質問力”が向上すると、「なぜこの評価項目に対しこの評価点を付けたのか?」「自身の成長課題は明確になっているか?」など、上司の意見を一方的に伝えるのでなく、部下自身が考え、話す機会を設けることができ、認識の齟齬の解消や理解度を深めるきっかけとなります。
ただ、上記のような能力は一朝一夕に身につくものではないため、評価スキルの習得(部下の行動観察のポイントや評価点の使い分け方・評価エラーなど部下の評価をつけるために必要なテクニックやコツ)も研修のプログラムに盛り込み、並行して習得させることをお勧めします。
 
ロ) 自己評価と上司評価で評価シートを分ける
テクニカルな手法としては、自己評価と上司評価で評価シートを分ける、というものもあります。運用の工数や手間は増えますが、自己評価の点数に引っぱられることなく、上司は評価することができます。また、自己評価シートには「自己評価は全体評価の参考にしますが、直接反映されるものではありません。自身の行動を振り返り、正直に記載してください。」と文言を加えることで、評価エラーを意図的に狙って高い点数を付けてくる社員を、事前にけん制することもできます。
 
ハ) 被評価者研修の実施
部下に対し被評価者に必要なスキル・マインド習得を目的とした研修を実施することも一つの手です。評価を受ける意味合いを学び、評価基準の理解度を深めることで、自己評価の精度向上や、フィードバック時の受け止め方の改善の効果が期待できます。実施していない企業も多いですが、自己評価の狙いを達成するためには最も重要な取り組みです。

 
いかがでしたでしょうか。自己評価は、部下の成長を促すために効果的な手法でありますが、一方で、評価者に負荷がかかることを念頭に置く必要があります。中途半端に導入して、健全な制度運用ができなくなるのであれば、むしろ導入しないということも選択肢の一つです。上司の評価スキル・フィードバック力や業務状況を踏まえて、導入の是非を検討していただければと思います。

執筆者

鈴江 遼 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー