役職定年後も社員に活躍してもらうためのポイント
人事制度
役職定年がその後の仕事に及ぼす影響は人によって異なる
役職定年制度とは、一定年齢に到達した際に役職者を退任させる仕組みです。一般的には組織の新陳代謝を目的としており、年齢という客観的な基準で一律に適用できるという企業側としてのメリットがあります。社員側は、役職の退任に対して、ポジティブもしくはネガティブに捉えるなど人によって大きく異なるようです。
例えばパーソル総合研究所の調査データによると、役職定年により「仕事に対するやる気・モチベーションが低下した(37.7%)」「喪失感・寂しさを感じた(34.3%)」「会社に対する信頼感が低下した(32.3%)」というようなネガティブな変化を実感する社員が一定程度存在します。しかしながら、「自分のキャリアと向き合う機会になった」「プレッシャーがなくなり、気持ちが楽になった」などのポジティブな変化を実感する社員も3割と、一定程度存在しています。
翻って今の時代を鑑みると、少子高齢化により採用がますます困難になるなか、役職定年者は貴重な戦力として引き続き活躍してもらう必要があります。であれば、対象者が役職定年を経て、仕事への意欲や会社への信頼感が低下するといったネガティブな方向ではなく、むしろポジティブに変化してもらうことは、人材活用の観点から非常に重要です。加えて、役職定年によりあまりにも仕事の意欲が下がってしまうと、周囲に悪影響を及ぼすというリスクも発生します。
では、そのような役職定年の捉え方の差はなぜ生まれるのでしょうか。上記調査によると、役職定年後のことをどれだけ具体的に考えていたか、また仕事に対する考え方を変えられていたか、ということが重要なようです。具体的には、役職定年を控えた事前準備について、「役職定年後について考えないようにしていた」人ほど役職定年をネガティブな変化を実感していたこと、逆に「退任後の具体的なキャリアプランを計画していた」人ほどネガティブな変化は実感しなかったことがわかりました。また「仕事に対する考え方を変えていた」人ほどポジティブな考え方を実感していたことも示されました。
上記の結果から、同調査では「いかに前もって役職定年後の具体的なキャリアプランを考え、仕事に対する考え方を見直す機会を持てるかが鍵である」と結論づけています。
言い換えると、役職定年後の具体的なキャリアプランを考え、仕事に対する考え方を見直すことができないと、役職定年後のネガティブな方向での変化につながるといえます。
役職定年後の社員の活躍を促すためには、キャリア観の転換がカギ
ではそれに向けて、何が重要となるのでしょうか。筆者はキャリア観の転換であると考えています。つまり、キャリアとは上がり続けるものであるという考え方を転換し、役職の退任=下がるキャリアをいかに受け止めてもらうか、というものです。多くの組織ではキャリアアップ=昇進であり、特に役職定年の対象となる方は20年から30年かけてそのキャリアを上り詰めてきた方といえます。役職定年は、そのようなキャリア観の転換を突然迫るものなのです。
であれば、このキャリア観の転換がなるべくスムーズに進むよう、会社としてサポートしていくべきではないでしょうか。具体的には役職定年の適用に先立ち、「キャリアの節目であることを実感してもらう機会を設定すること」、そして「役職定年後の自身の役割について探索する期間を十分に確保すること」等があげられます。
前者は役職定年後、ひいては定年退職までどのようなキャリアを歩むべきか、業務から離れてじっくりと考えてもらう場を設定するというものです。あわせて、これまでとは異なる形で会社に貢献してほしいという会社からのメッセージを伝えることも効果的でしょう。ただし、そう簡単には本人のキャリアプランと、組織のニーズ(解決すべき課題)が合致するわけではありません。そこで後者のように、現状あるいは将来の組織課題は何か、そこで管理職ではない立場としてどのような貢献ができるのか、一定の期間をかけて探索することになります。
ポイントとしては本人がキャリア転換に向けてしっかりと時間を確保できるよう、役職定年の直前ではなく数年前から実施し、またその期間は上位者または後任者が本人の業務を一部巻き取る等の工夫をすることです。役職定年に伴う後任者の選定・育成等を踏まえると、このように中長期的な視点から先手で組織的に対策を打つことが、何よりも重要だといえます。
執筆者
長尾 拓実
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職では、中小企業を中心とした採用支援事業に約3年間従事。
企業・求職者双方と接する中で、働き甲斐ある職場の実現において社員一人一人が活きる組織づくりが重要だと実感。
この経験を通じて「組織づくりを基軸に中小企業の成長に貢献したい」と想い新経営サービスに入社。
課題に対して粘り強く、企業の良さが活きるコンサルティングを心掛け日々活動している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。