人事評価を通じて企業理念や行動指針の浸透を図る
人事考課(人事評価)
自社の企業理念や行動指針について、人事評価の項目に落とし込むことで浸透を図りたい、というご要望をいただくことが最近増えています。その背景としては、ある会社は組織の拡大により多様な人材を採用した(あるいはこれから採用する予定がある)こと、もしくは別の会社では在宅勤務が定着し朝礼や顔をあわせての仕事の機会が減ったこと等があるようです。いずれも社員の価値観の共有を重視し、それに向けて自社の企業理念や行動指針に基づく評価項目を設定することで、その内容を評価期間ごとに定期的に確認する場を設け、さらに処遇に反映することで遵守を促したい、という声をよく聞きます。
しかしながら、企業理念や行動指針といった会社の価値観について、適切に運用できる評価項目へと落とし込むことは、多くのケースにおいて困難が伴います(評価の運用に高度に習熟している場合を除く)。まず、人事評価の目的のひとつは公平な処遇の実現にあります。それを踏まえると、評価項目の達成の程度に関する認識が評価者間あるいは評価者と被評価差の間で共有されることが重要となるため、表現はなるべく具体的であることが求められます。またその一環として、対象者の層(等級や役職)ごとに基準を設定することがほとんどでしょう。
一方で企業理念や行動指針は、会社の考えをなるべく多くの社員に理解させることが優先されます。そのため表現は多くの場合にシンプルかつ抽象的となり、対象者の層で表現が変わるということもほとんどなく、達成の程度について認識を揃えることは多くの場合に困難となるのです。
であれば一足飛びに評価項目を設計するのではなく、段階的に取り組むことも一案でしょう。例えば最初のステップとして、目標管理による評価の枠組みにおいて目標の一部を企業理念や行動指針に沿って設定させる、という運用から始めてみます。この場合、評価対象はあくまで目標の達成度であり会社の価値観そのものの達成度ではないことから、上記で述べた困難は回避できます。また目標設定やその振り返りのたびに、企業理念や行動指針について考える機会を持つことで、浸透を図る効果も期待できます。
とはいえ企業理念や行動指針の達成度を直接評価・処遇するわけではないことから、浸透に向けた効果は限定的です。そこで次のステップとして、上司の裁量による加点評価の観点に企業理念や行動指針を追加します。評価者や経営の裁量で評価するという建前での運用が機能すれば、達成の程度に関する認識を評価者と被評価者の間でそこまで厳密に合わせる必要がなくなる分、ハードルは下がります。また評価の都度、加点理由について評価者間で検討し目線を合わせていくことで、現場の管理職の間で企業理念や行動指針をチェックする際の観点や基準が徐々に共有化されていくでしょう。
そして最後のステップとして、企業理念や行動指針などを人事評価項目に落とし込みます。ここまでくれば、最初のステップにおいて設定された個々の目標や、第二のステップにおける加点時の観点などが、評価項目として具体化するための材料として活用できるでしょう。またこのタイミングで、役員同士もしくは評価者を交えて「うちらしさとは?」「今後求めるべき行動は?人材像は?」等について対話し、それぞれの考えを言語化することも、よりよい評価項目づくりに有効です。
今後、時間や場所など働き方が多様化する中、多くの会社において企業理念や行動指針といった会社の価値観の浸透が、これまでよりも重要になってくると思われます。ここでの内容をぜひご参考にしていただければ幸いです。
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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