家族手当と住宅手当の採用企業が増加傾向?トレンドの背景を考える
賃金制度
本ブログのタイトルにもある家族手当と住宅手当は、長期的には採用企業の割合は減少傾向にある、というのが一般的な認識だと思います(例えば、厚生労働省 平成28年4月 女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会 報告書*1、等)。ところが、直近数年では採用企業が、むしろ増加傾向にあるというデータがあります。
以下のグラフは、東京都産業労働局による中小企業の賃金事情*2を出典として、各年度における家族手当と住宅手当の採用企業割合を時系列で示したものです。いずれの手当も、平成23年からほぼ一貫して減少傾向にありますが、しかしながら令和2年度を境に上昇に転じていることがわかります。
このトレンドの変化は、何を背景としているのでしょうか。新たに家族手当や住宅手当を設定した企業は、何を企図していたのでしょうか。残念ながら調査結果からは手当の内訳までは不明であるため推測にはなりますが、採用や定着に向けて家族手当や住宅手当を活用する企業が増えてきているのではないでしょうか。
例えばある企業から伺った話ですが、30代の子持ち世代で退職が相次ぐことを理由として、子ども手当を新設したということでした。その際の支給額は、令和3年度中小企業の賃金事情による第一子の平均支給額が5,802円であることを踏まえ、子1人につき1万円と高額に設定すると同時に、子どもの人数制限も敢えて設けず、ベテラン世代の定着に向けて経営の本気度をアピールされたとのことでした。
また新卒採用の強化に向けて住宅手当の新設を検討した事例もあります。親元を離れて地方から首都圏に就職する場合、一人暮らしを始める際の住居にかかる初期費用が負担となります。そのため、一人暮らしの社員に対して家賃の一定割合を補助する住宅手当を支給すると同時に、ある程度の収入が確保できる30歳到達時には外すことを通じて、採用力強化と人件費増分の抑制を図りました。
ただし家族手当や住宅手当は、一度導入してしまうと廃止することが難しい点は、留意する必要があります。廃止に際してあまりにわかりやすく給与が減ってしまうため、社員の不満につながりやすいからです。とはいえ、もし採用や定着に課題感があるのであれば、これら手当の新設や復活を検討されてみてはいかがでしょうか。
*1 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000121635.html
*2 https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/chingin/
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
バックナンバー
- 評価基準の具体化のメリットとその進め方
- 新しい人事制度の理解を促すための工夫 ~理解度チェックテストとロールプレイ~
- 若手社員を定着させるために、昇格制度でできる工夫
- 人事評価は加点主義で実施すべきか否か?
- 専門性の高い業務がない場合の 専門職制度(複線型人事制度)の設計
- どのように賃金を引き上げればよいか? ~最低賃金の引き上げや採用競争に向けて~
- 社員の自己研鑽に向けた非金銭的な支援について
- 人事異動を促すために必要となる具体的な施策2点
- 異動がないと業務のトラブルや退職につながる!?
- コア人材の獲得に向けて給与水準を職種別に設定する
- メッセージに沿った人事施策・人事制度の見直し
- 人事評価を通じて企業理念や行動指針の浸透を図る
- 評価しきれない社員の頑張りにどう報いるのか?
- 現役世代のルールに準じた、再雇用時の月給の決定について
- 昇格条件の厳格化を通じた人件費高騰の回避