人事異動を促すために必要となる具体的な施策2点
人事制度
前稿において、中小企業における異動の重要性について述べました。ここでは実際に異動を促すための具体的な施策について述べていきます。
ところで、異動を阻害する要因は多岐にわたります。例えば対象者本人が、将来的な自身のキャリアがどうなるのか、あるいは異動後の慣れない業務で成果が出せるのか、それによって評価が下がるかもしれないといった不安から異動を受け入れ難い。またその上司である管理職にとって、社員を送りだす側は優秀な社員を手放すことのデメリットを、迎え入れる側は教育に労力を割くことのデメリットを感じ、特に自部署の目標達成責任が重いほど、部下の異動を渋りやすくなる。さらには送り出した後・迎え入れた後の体制が整わない等も含めると、様々な問題が考えられるでしょう。
今回は具体策として、特に重要となる次の2点について解説します。まず異動対象者本人に対して、不安を減らしスムーズに異動を受け入れてもらい、異動した先でも活躍してもらえるよう異動の目的をしっかり理解してもらうこと。また体制の整備をはじめ異動によって生じる個々の問題に対して組織的に対処できるよう、全社的な異動の計画を立て共有することです。
まず1点目については、異動先等の短期的な話だけではなく、組織として長期的にはどのようなキャリアを期待しているのか、そしてそれに関して異動後の業務を通じてどのような成長を期待しているのかを丁寧に説明し、対象者本人の不安解消に努めるとよいでしょう。
また、それに際して異動時に被る人事評価上のデメリットがあるのであれば、それをまずは解消しておくべきです。具体的には異動直後の一定期間は評価点に関わらず標準評価未満はつけない、およびその期間は昇格判定における評価履歴として使用しない、といったものとなるでしょう。それによって、対象者本人の慣れない業務で評価が下がるといった懸念の解消を図ります。もちろん特に目覚ましい働きがあれば標準評価ではなく高評価とし昇格も検討すべきです。
2点目は、異動に関する全社計画の策定と共有です。異動は、出す側・受け入れる側の双方の部署における人員や業務の状況を踏まえる必要があるため、入念な調整を経た計画的な実施が不可欠です。具体的な方法としては、育成の面から候補者をリストアップし、昇格の優先度(本人の能力、あるいは年齢や社歴)と実現性(異動後の部署の受け入れ可否)等を加味しながら、今後3~5年の全社計画を部署間ですり合わせることが挙げられます。その際ポイントとなるのは、候補者全員に対していつ異動させるのかを検討できるよう単年ではなく3~5年の中期スパンで計画を立てること、また入退職等による人員の変化を反映できるよう計画は毎年見直す、という2点となります。
このように、あらかじめ将来的な異動の計画が判明していれば、それに基づき自部署の目標達成を立てることも容易となるため、上司である管理職も部下の異動を受け入れられやすくなるというメリットも期待できます。また異動の計画に基づき、業務体制の整備に向けた取り組みも実施しやすくなるはずです。ただし、異動対象者本人に意図せず漏れたりして余計な不安を煽ることのないよう、開示の範囲と取り扱いの方法は十分に注意すべきでしょう。
以上、異動の促進に向けた具体策を2点解説してきました。異動が少ないことによるリスクを懸念されている企業様は、ぜひ参考として取り組まれてはいかがでしょうか。
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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