異動がないと業務のトラブルや退職につながる!?
人事制度
先日、異なるご支援先から人事異動に関するご相談を立て続けにいただきました。ご相談の内容としてはほぼ共通しており、「会社命令により社員の異動を進めたいが、本人に承諾してもらえず思うように進まない」というものです。
それでは、異動をうまく進めるにはどうすればよいのでしょうか。そのことを述べるのに先立ち、異動の重要性についてまずは解説していきます。その際、特に中小企業で社内の異動が少ないことによって発生するリスクという観点から、筆者がこれまでに経験した事例をもとに整理していきたいと思います(異動に向けた具体的な施策は次稿にて解説します)。
①属人化により突然の休職・退職が業務上のトラブルを招く
社員の人数や、取り扱う業務の規模が限られる中小企業では、1名や2名体制で業務を担当せざるを得ないこともあります。異動によって担当者を交替しないままでいると、その業務に関連するノウハウや情報を他者に共有しようというインセンティブが働かず、いわば業務の属人化が進んでしまいます。それによって、担当者の交替に際して引継ぎに多大な労力と時間が必要となります。特に突然の病気による休職などの場合、その引継ぎがそもそもできず、トラブルにつながる場合もあるでしょう。
特に昨今では新型コロナウイルスの流行により、会社で同様のトラブルを経験された読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。例えば経理担当者のコロナ感染のため、休職と体調不良のため思ったように引継ぎができず支払いや請求・決算が危うくストップするところであった、あるいは営業担当者のコロナ感染によってサービスが提供できなくなりクレームにつながった、等です。属人化の回避に向けた異動の重要性は、感染症の拡大により特にここ数年で非常に高まっているといえます。
②若手がキャリアアップの限界を感じ退職する
退職や休職時のトラブルだけでなく、そもそも異動がないことが退職の直接的な原因となった、という話も聞きます。ある会社では以前より30歳前後、社歴でいえば5年から10年程度の退職が相次いでいました。その会社の人事担当者が、信頼関係ができていた一部の社員に退職理由を聞いたところ、「何年たっても担当業務が変わらず、ポストが埋まって昇進も望めないので、今の会社にとどまっていてはキャリアアップが絶望的だから」ということでした。
実際に、人材紹介大手のdodaが実施した調査 (*1)において、30代の転職理由の2位が「昇進・キャリアアップが望めない(33.0%)」、3位が「スキルアップしたい(27.4%)」となっていました(複数回答可)。環境変化のスピードがますます速くなり先行きが不透明なこの時代において、キャリアやスキルを充実させて自身の市場価値を高めることが重要といわれています。そこで会社や仕事を通じたキャリアアップが望めないのであれば、転職も当然の選択といえるでしょう。
なお上記のようなリスクの回避以外にも、異動によって個人や組織に様々なプラスの効果が期待できます。例えば異動経験者は未経験者と比べて成長志向や学習意欲が高い、あるいは異動の定期的な実施が組織内のコミュニケーションを促し事業や経営に良い影響を与える、といった効果が調査によって確認されています(*2)。これらの結果も参考にしながら、自社を振り返った際に異動が少ないと感じられる場合は、ぜひ異動の積極的な実施に向けた検討をされてはいかがでしょうか。なお具体的な施策については次稿で述べていきます。
*1出典:doda「転職理由ランキング2021」
*2出典:パーソル総合研究所 2021「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査」
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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