現役世代のルールに準じた、再雇用時の月給の決定について

70歳定年延長が叫ばれるなか、人手不足や同一労働同一賃金の動きと相俟って再雇用制度の見直しの検討を考えられている企業が増えています。
 
その再雇用制度の設計に際して重要なテーマとなるのが、給与水準の決定ルールです。よくあるのは、再雇用前の月給や年収の90%あるいは80%のように定率で月給を決めるもの、あるいは一律250,000円のように定額としてしまうものなどが挙げられます。なかには高年齢者雇用継続給付を受取れるよう、再雇用前の70%あるいは60%に設定されているケースもあります。
 
しかしそのようなルールは、当該社員の再雇用後の貢献の度合いと処遇がマッチしないことで、問題が生じることもあります。例えば再雇用前の50%など処遇を大きく引き下げる等により、同程度の貢献(能力や役割、成果など)である現役社員と比べて再雇用者の処遇があまりに低くなることがあります。その場合、本人のモチベーション低下のリスク、あるいは同一労働同一賃金に関する法務面のリスクが考えられます。一方で、再雇用前から処遇をあまり引き下げないものの、より責任や負担の低い業務へと変更になったことにより、同程度の貢献社員と比べて再雇用者の処遇が高くなることもあるでしょう。その場合、現役社員からの不公平感につながることが想定されます。
 
これらの問題をクリアし、かつ必要以上に複雑な仕組みとしないための方法として、再雇用者の処遇決定に際して現役世代のルールを準用することも一案です。具体的には、
 
①再雇用の契約を結ぶ都度、期待する貢献の度合いをすり合わせたうえで、
 
②その貢献は正社員の等級や役職のレベルでいえばどの程度なのか(課長補佐クラス、主任クラス、もしくは新人相当のレベルなのか?)を判断し、
 
③またその等級に該当する現役社員と同程度(あるいは長澤運輸の判決を踏まえ80%程度)の給与水準とする。
 
このようなプロセスを踏むことにより、同一労働同一賃金や現役世代からの不公平感といったリスクは解消できます。また再雇用後の期待貢献の度合いについて、その処遇もあわせて本人とよく話し合うことにより、モチベーション低下のリスク回避も期待できます。
 
ただし次の点に留意する必要があります。つまり上記の仕組みは前提として、再雇用社員に対して現役世代に準じた多様な貢献や働き方を期待すること、および再雇用者と現役社員との間での公平感を優先することに重点を置いている、という点です。もし、そこまで多様な貢献や働き方を想定しないのであれば、マネジメント・プレイヤー・業務サポートの3つの役割コースを設定し、それぞれに定額の月給とする方が、制度としてのシンプルさが確保できるという点で、むしろ適切なこともあります。
 
日本の人口動態をみると、団塊ジュニア世代と呼ばれるボリュームゾーンが50代に差し掛かりつつあり、60歳以降の社員をどう処遇するかは近い将来に多くの会社で避けては通れない重要な経営課題となることが明らかです。上記の例を参考にしながら、自社により適しているのはどのような仕組みなのか、今から先手を打って検討してみてはいかがでしょうか。

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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