「厚生年金基金」の蟻地獄からいかに抜け出すか

企業年金の1つである厚生年金基金(以下「基金」)に関して、今年の6月に法改正(「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」)があったことは関係者の皆さんは既にご承知のことと思います。特に「総合型」と言われる基金では、多くの中小企業が加入企業となったままの状態であり、今回の法改正によっていよいよ基金の解散、脱退、移行を視野に入れなければならなくなりました。
 
退職金・企業年金に関して、弊社はこれまで、昨年3月で終了した税制適格年金の移行をコアの課題として力を注いでまいりました。一方、厚生年金基金については「個別企業では脱退する・しないの選択肢しかない」と判断し、コンサルティングを見送ってきました。
 
しかし、今回の法改正により一部の健全基金を除き、今後5年間で解散に向けて動き出すこととなり、今後の対応を迫られるクライアント企業の力になるべく、弊社でも対応を考えているところです。
 
今回の法改正によって基金加入企業にとっての選択肢が広がったこととなりますが、問題は加入基金の状態です。いわゆる「代行割れ」(4割の基金が該当)については、代行部分の不足分を埋めるだけで経営的に精いっぱいとなるでしょう。
 
その際、①事業所間の連帯債務ルールが外される ②代行部分に付与される利息が固定化 ③分割納付期間が15年→30年に延長される という制度の見直しが行われますので、それらをもとにどのように対策を講じるかを個別企業ごとに検討しなければなりません。
 
また「代行割れ予備軍」(5割の基金が該当)については、代行部分を返上し、他制度(DB、DC、中退共)に資産を持ち込むスキームが設けられ、それに乗るかどうかも含め、制度設計全体の再検討が必要となります。
 
残る1割は「健全基金」と位置づけられていますが、そもそも厚生年金基金というしくみ自体が、時代とともに制度疲労を起こしている状況からすると、果たしていつまで加入企業でいるべきか、今一度検討しなければなりません。

厚生年金基金を「蟻地獄」と表現する人もいます。
 
・現役世代社員(加入者)よりもOB世代(受給者)が増えて、現役1人あたりの負担がますます増えていく制度である
・かつての5.5%の運用利回りが一定確保できていた時代が終わり、プラスマイナス20%の運用の可否にさらされ続ける制度である
 
代行部分は本来、国のものです。代行部分を「耳をそろえて」国に返すためには、相当の負担を強いられる企業が多く、その負担は「借金の返済」でしかありません。このような構造的な問題を考えたときに、5年といわず、一刻も早く基金の蟻地獄から抜け出すことを、まず最優先に考えていただきたいと思います。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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