評価基準のモノサシを揃えるために

評価制度を導入すると、実際の運用段階で「評価のばらつき」が生じることがあります。評価制度を上手く機能させるためには、評価基準のモノサシを揃えることが重要です。本稿では、評価基準のモノサシを実践的に揃える方法についてご紹介します。
 
■「評価のばらつき」が生じる原因
そもそもなぜ評価のばらつきが生じるのでしょうか?その背景には、評価基準があいまいで解釈に幅が出やすいこと、評価者ごとの思考特性による癖が影響すること、また部門や拠点によって文化や仕事の実態が異なる場合があること、などが挙げられます。さらに、急成長や変化の多い組織、評価者の層が若くマネジメントや評価の経験が不足しがちな組織、評価制度導入直後で運用ルールが浸透していない組織では、評価の目線が揃いにくく、ばらつきが一層生じやすくなります。
つまり、評価基準のモノサシがそろっていない状態とは、評価の観点やスキルが部門や評価者ごとに異なり、同じ成果や行動であっても評価の付け方に差が出てしまう状況を指します。たとえば、ある部門では「主体性」を高く評価する一方、別の部門では「協調性」を重視する、あるいは同じ「達成度80%」の成果を評価者によって「十分達成」とみなすか「不十分」とみなすかが異なる、などといったケースです。このような状態を放置すると、社員間で評価に対する不公平感が生まれ、評価制度自体の信頼性を損なうリスクが高まります。
 
■ 評価基準のモノサシを揃えるために
では、どのようにして評価のモノサシをそろえればよいのでしょうか。今回はその実践的な方法として、『模擬評価調整会議ワーク』をご紹介します。
評価基準ガイドとは、評価項目ごとに求められる行動や成果の“満点”は何かを、具体的に示した基準集のことを指します。たとえば、「報連相」という評価項目があったとすると、ガイド内では、「報連相」にまつわる具体的行動や成果として、以下の通り明文化されます。

 

【1】ワークの目的と狙い

このワークの目的は、評価者同士が評価の「ズレ」を体感しながら、共通の判断軸を築くことにあります。単なる評価スキルを学ぶ講義ではなく、「同じ対象を評価する」という実体験を通じ、評価のばらつきを可視化し、対話によってそのズレを整えることが特徴です。

 

【2】実施の流れ

 ①個人ワーク

まずは、各自が実際の評価と同じように、事前に用意した「評価項目」に沿って点数をつけます。評価対象は、グループ全員がよく知る実在の社員を設定します。日常の働きぶりや成果を具体的に思い浮かべながら評価できるため、よりリアルな判断が可能になります。この段階で早くも、評価者ごとの観点や判断基準の違いが浮かび上がります。

 

 ②グループワーク

次に、個人でつけた評価を持ち寄り、会議形式で議論します。司会と書記を選任し、できるだけ同じ部門・近い職位のメンバーでグループを構成すると効果的です。共通の職場経験があることで、「同じ情報をもとに、なぜ評価が違うのか」を具体的に話し合いやすくなります。議論では、単に点数を合わせるのではなく、「なぜその評価をつけたのか」「どの行動や成果を重視したのか」といった背景や考え方を言語化して共有することがポイントです。

 

【3】議論を通じて得られる学び

議論の最終段階では、グループとして最終的な評価のすり合わせを行い、各項目の基準を明確にします。この「合意形成」の過程こそが、このワークの本質的な価値です。ここで重要なのは、「誰が正しいか」を競うことではなく、「なぜそう考えたのか」「何を評価根拠としたのか」を互いに確認し合うことです。この対話を重ねることで、評価者間の認識のギャップが埋まり、共通の評価基準のモノサシが形成されていきます。

 

【4】ワークを通じて得られる副次的な効果

 Ⅰ.評価者が自身のクセに気づく

甘辛傾向、印象バイアスなど、自分の評価傾向を客観的に捉えるきっかけになります。

 

 Ⅱ.他者の他者の視点を理解する

他者の異なる評価基準を知ることで、「こういう見方もあるのか」と視野が広がり、結果的に評価の精度向上が期待できます。

 

評価制度の精度を高めるのは、制度そのものだけではありません。むしろ鍵を握るのは、評価者同士の“認識共有の質”です。このようなワークを定期的に実施することで、評価基準が少しずつ整い、組織全体としての評価精度と公平性が高まっていきます。

 

いかがでしたでしょうか。評価基準のモノサシを実践的に揃える方法について、『模擬評価調整会議ワーク』をご紹介しました。モノサシを揃えることは、単に評価の一貫性を担保するだけでなく、組織全体の共通言語を形成し、協働を促進するという効果もあります。そして、組織の価値観や方向性を共有、その整合性が保たれている組織ほど、持続的に成果を生み出す力があります。

年度末の評価に向けて、まずは評価のばらつきが発生していないか、確認する作業から始めてみてはいかがでしょうか。

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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