若手社員を定着させるために、昇格制度でできる工夫

人手不足により、採用競争が一段と激化しています。そのような中、コストをかけ苦労して若手を採用できたとしても、定着せずにすぐ離職してしまうという悩みを抱える企業は多いのではないでしょうか。私がふだん支援している先でも、初任給の引き上げなど労働条件を競合並みに充実させても、新卒で入社してから5年程度で、多い場合は半数が離職してしまうというお客様もいらっしゃいます。
 
この離職の理由は様々ですが、一部の企業では「成長を実感する機会に乏しいから」という声が聞かれます。この点については、以下のようなことが考えられます。すなわち入社後しばらくは、個々の業務を覚えていく段階ですから比較的成長実感が得やすいと言えます。一方で、入社から4~5年も経過し業務にある程度習熟してしまうと、自分の成長を実感する機会が乏しくなり、将来のキャリアに関する不安から離職を考えてしまうのではないか、ということです。
 
であれば一通り業務を習熟したタイミングで、本人に成長を実感させる仕組みを意図的に設けることが重要です。方法としてはいくつかありますが、昇格制度を工夫することも一案です。昇格制度といえば試験や面接など、本人が昇格に値するかを審査するものだ、というイメージを持たれている方も多いかと思います。そうではなく(あるいはそれにくわえて)、昇格を本人の成長実感の機会として位置づけるということです。
 
具体的な方法としては、例えば以下の2つです。
 
①キャリアの棚卸を通じて成長実感を得る

昇格審査の一環として、入社からこれまでに経験した業務、できるようになったこと、またそれを踏まえての自分の強み、今後の成長課題等についての文書作成を課すという方法です。改めて自身のキャリアを言葉にすることによって、成長を実感してもらう機会とします。本人だけではなかなかスムーズに進まない場合、上司から所感を伝えサポートするとよいでしょう。また当該課題の名称についても、やらされ感を極力回避し本人が前向きに取り組めるよう、「課題」「レポート」という言葉よりも、「成長シート」「キャリアシート」など意図が伝わるようにすることもポイントです。

 
②昇格昇給に加えて、今後の期待を伝える

昇格時には評価による通常の昇給にくわえて、一定額の昇給を上乗せする(金銭的メリット)ことも効果的です。ただし、その昇格昇給も単に給与通知で済ませるだけでなく、できる限り成長実感を得てもらえるように、上司から十分に時間をかけて説明することが重要です。つまり本人の貢献や成長を承認し、さらに高いレベルでの貢献や成長を期待していることを、上司が自らの言葉で具体的に伝えることが有用です。また期待レベルを上司が本人へ説明しやすいよう、等級基準の内容を整備することも一案です。

 
もちろんこれらの昇格制度の運用に際しては、上司である現場の管理職が意図や内容を適切に理解し実施できるかどうかが重要です。せっかくコストと労力をかけて採用した若手社員の定着と活躍のために、昇格制度を工夫してみてはいかがでしょうか。

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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