人事評価は加点主義で実施すべきか否か?
人事考課(人事評価)
評価者研修をしていると、参加者の方から加点主義について質問されることがあります。具体的には「部下を褒めて伸ばすことが正しいと思っているので自分は加点主義で評価をしているが、問題はないか?」あるいは、「部下の話を聞いていると、隣の課のA課長は加点主義で評価をしているようだ。自分は普段そのようなことを考えていないが、本来はどう評価するのが正しいのか?」といった質問です。
この質問に対しては、社内の評価制度が加点主義ではなかったため、一部の評価者が独自に異なるルールで評価することは、公平性の観点から不適切であるとお答えしました。では社内の評価制度が加点主義であればどうでしょうか。加点主義に基づく人事評価のメリットやリスクについて触れてみたいと思います。
加点主義人事評価とは何か?定義とメリット
まず、ここで言う加点主義に基づく人事評価とは、本人の不足する点ではなく、望ましい成果や行動,つまり加点要素についてのみフォーカスするという人事評価における考え方のひとつです。具体的な評価の仕方でいえば、「コミュニケーション」や「自己研鑽」といった各社それぞれの評価項目を1点~5点の5段階で評価する場合を例にとると、最低の1点を基準として、期中に認められた加点要素の量が多い・質が高いほど高得点とする、ということになります。またその際、望ましくない行動や成果つまり減点要素は点数を決めるうえで加味しないということも、加点主義の特徴であるといえます。
この加点主義による人事評価は、次に述べるような価値観と強い親和性があります。例えば至らぬ点を指摘するのではなく、良いところを褒めて伸ばしたい。一度や二度のミスでくよくよしないでほしい。あるいは結果やミスよりも、チャレンジしたことを認めて促したい。このような価値観を大切にする企業や経営者にとっては、その価値観と仕組みの一貫性を確保できるという点で、加点主義人事評価は魅力的なものといえます。
加点主義人事評価のリスク
とはいえ、加点主義人事評価を導入するに際しては、そのリスクも認識する必要があります。それは組織や上司が望む方向への行動変容という意味での人材育成が、効果的に実施できないという点です。このような人材育成に際しては、組織や上司の期待と本人の実態とのギャップ、つまり今できないが将来できるようになってほしいことを明らかにしたうえで、取り組むことが欠かせません。しかしながら加点主義人事制度では今「できないこと」にはフォーカスしないため、人材育成が効果的に実施できないということになります。人材育成が多くの企業で課題となっている昨今、この加点主義人事制度のリスクは無視できるものではないでしょう。
もし、このようなリスクを把握したうえでもなお「良いところを褒めて伸ばしたい」「結果やミスよりもチャレンジを認めたい」といった加点主義の考え方を実践したいということであれば、それは日常のコミュニケーションで実践し、かつ人事評価に際しては人材育成を目的に「できないこと」にもフォーカスする、といった使い分けをするのも一案です。加点主義に興味のある方は、ぜひ参考になさってください。
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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