人事評価制度を新入社員の早期育成に活用するために

今年も4月を迎え、新入社員を迎えられた会社もあると思います。コロナの影響で例年通りにはいかないにしろ、今頃は研修で忙しいところかもしれません。
 
よくこの時期に弊社のお客様より、「新入社員の方も人事評価をすべきか?」と聞かれることがあります。お伺いするのは例えば、配属されたばかりの社員はまだ一人前になっていないのだから、あるいは初年度から賞与や昇給などに差をつけることは想定していないので、わざわざ評価をする必要はないのではないか、といったお話です。
 
その質問に対しては、新入社員だからこそ人事評価をしてあげるべきです、とお伝えしています。その理由としては、人材育成が人事評価の目的のひとつであり、また人材育成の対象として特に重要なのが新入社員だから、というものです。
 
とはいえ、いざ新入社員への評価とそれに伴う面談を実施しても、形式的なものにとどまってしまう会社が多いと思います。はじめての評価・はじめてみる評価表ということで、貴重な面談の時間は評価制度の内容や評価表の説明が主体となり、それを踏まえた半期あるいは1年の振り返りは来期改めて、となりがちです。
 
もし、育成をより早くから行おうとするのであれば、例えば初回の人事評価時ではなく、配属されてすぐに評価表を開示する、ということも考えられるのではないでしょうか。評価制度の内容とともに、実際の評価表を見せながら本人に期待する役割や行動についての共有を、評価時期を待たずなるべく早いタイミングで実施しておく。そうすることで、評価項目を日頃から意識することで本人の成長に寄与するでしょうし、また評価時の振り返りや来期の課題設定がより具体的に実施できるはずです。
 
ただしその際、本人が評価にネガティブな印象を持たないよう注意が必要です。あくまでも査定ではなく育成のためであるという評価の趣旨を、本人に丁寧に説明することが求められます。また実際に、入社から一定期間は評価結果を処遇に反映させない仕組みとして、査定的な性格を排除するということも考えられます。
 
なお、この処遇反映について、新入社員における仕事の出来不出来は、本人の能力や努力だけでなく、上司や同僚の指導・支援の程度によって左右されやすい傾向があります。そのため、評価結果を賞与や昇給、あるいは昇格など本人の処遇に反映させることは、そもそも適切ではありません。本人自身による成績が明確である場合は別ですが、そうでなければ新入社員の間での不公平感がでないよう、入社から一定期間は昇給を一定とするなど処遇のルールを別に設定しておくとよいでしょう。
 
新入社員の早期の育成に向けて、人事評価のプロセス、特に評価表の開示とそれに伴う制度説明のタイミングについて、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

執筆者

田中 宏明 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー